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悪夢と、感覚の歪みと、映像表現の話

悪夢をよく見る。

悪夢をよく見ることと、その人の人生が(客観的に)それほど壮絶なのかということは、実はあまり関係ない。
私の育った環境はごくありふれたもので、単に両親の仲があまり良くなく、そして両親ともに子育てがあまり上手ではなく、田舎だったからいろんなものの選択肢が少なかった。それだけだ。

ありふれた境遇でありふれた未熟さを抱えている人間はそう珍しくないけど、「そう珍しくない」ということを知る機会がなく、自分の未熟さに意識が集中してしまう気質を持っていると、
私みたいに「(主観的に)壮絶な世界観」を持って育ってしまう。

高校生の頃はグロテスクなコンテンツばかり見ていた。
あれはいわゆる思春期の十代がいったん過激なエロコンテンツにハマってしまう心理と同種だったと思う。
ホラーゲーム「サイレントヒル」のグラフィックや世界観が好きで、それに影響を与えたとされるフランシス・ベーコンの絵画や、映画「ジェイコブスラダー」なんかを調べていた。
大学に入ってからはクリス・カニンガムの映像作品に触れたり、教授が見せてくれた「ねこぢる草」に感銘を受けていたりして、卒業制作の内容にも影響が出た。

言っても寝るにも食うにも困らない平和な場所に生きてるくせに、暴力も受けていないしそれなりに友達だっていたのに、そういうドロドロとした世界観に親近感を覚えていた。


悪夢の内容が激しくなり始めたのは、都会に出て、いろんな価値観や知識を得て、今まで暮らしていた環境の問題点と、「もう今まで心配していたことを心配する必要はない」という安心感を得てからだったと思う。

おそらく自分が十代の頃心配していた、というか感覚として持っていて、今やっと”気にしなくてよくなった感覚”が、全部蘇る悪夢を定期的に見る。

ほとんどの場合両親が出てきて、自分が今作家活動や友人関係でやろうとしていることを、ことごとく邪魔してくる。私の今の考え方による主張を全部否定される。「まだそんなこと言ってるの」「そんなだからお前はダメなんだ」「そんなこと今すぐやめて、もっと普通に生きてよ」

(ここで重要なのは、両親が明確にこういった言葉遣いをしたケースは、実際にはほぼない。いや、覚えてないだけで昔はあったのかもしれないけど、少なくとも今は、自分の生活や活動は応援してもらっている)

夢の中の私は大抵、最終的には大声を出して抵抗しようとする。
反論なり威嚇なり拒絶反応なり、とにかく絶叫しようとする。
が、声が出ていない。出そうとしても出ないというパターンもあるし、
反論を全部言い切った!と思ったら(夢の中で)目が覚めて、実際にはなんの抵抗もできていないまま目の前のことは進んでいてもう手遅れとか、そういうパターンもある。

最終的には何が事実で何が夢なのかわからなくなる。
さっきまで両親と口論していたと思って気がついたら殺人鬼に追われていたり、ばかでっかい顔が目の前で大口を開けていたり、よくわからない生物が激しくのたうち回っていたりみたいな、とても耐えられないような光景が目まぐるしく変わっていく。

そして、目が覚めてもしばらく現実感がない。このへんは眠剤の飲み合わせが悪かったりする場合もあるんだろうけど、とりあえず急いでスマホでTwitterなどを見て現実感を取り戻そうとする。
が、強い眠気が残っていて気がつかないうちに寝ている。で、Twitterに壮絶な悪口が書かれている夢とか、LINEで猛攻撃を受ける夢なんかを見る。
目が覚めて「あぁ夢だったよかった」と安心する。また寝ちゃって混乱する。ひどい時は数回繰り返す。

こういう悪夢を見ると、最低でも半日は立ち直れない。
起き抜けに話しかけられると反射的に「ごめんなさい」と言いそうになるし、人の言動が全部怖くて怯えている。これが定期的にある。


この悪夢の感覚にものすごく近い映画があって、始めて見た時驚いた。
ダーレン・アロノフスキー監督の「マザー!」という映画。

キリスト教色のめちゃくちゃ強い象徴的な内容のサイコスリラーで、グロいというよりは倫理的に問題のある不快な場面が多く、正直全然人に勧められる映画ではないんだけど、
とにかく全部のことが主人公の思うようにいかず、どんなに泣き叫んでも何一つ止まってはくれず、「さすがにそんなことあるわけない」と思うこともどんどん起こり、自分の想定する一番最悪な状況に向かって全てが一直線に向かうという、まさに悪夢的な映画で、
いや…そんな映画誰が楽しいねんって感じだけど…
自分はすごく、「そうそう、そうなるよね、いや実際はならないけど、なるよね」みたいなわけわかんない”共感”を持って見ていた。


なんか、改めて病院で相談するべきなのかなぁ。
自分の環境は特別不遇でもなく、単に自分が自分の悪い点に集中して誇大に捉えているのが問題なだけで、ようはただの自意識過剰だったなぁと、
だから父親の言った「お前は精神科にかかるような人間じゃない」「病気になりたがるな」というのは今思うと正しかったんだなぁと最近思ったけど、
結果、なんとかなってないし、生活に支障出てるから、言ってみようかな…

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