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狩山幹生は玉を攻めない――連載「棋士、AI、その他の話」第34回

「自分にとって将棋は仕事なので、楽しいという感覚は昔からありませんでした」
 狩山幹生はそう話した。昨年の8月、プロ入りから1年半ほど過ぎた頃のことだ。
 棋士としての目標は、と問われると「もっといい家に住みたい」「普通の生活が送れるぐらいには活躍したい」と語る彼の言葉はおよそ新人プロ棋士のものではない。なにせ、タイトルのタの字すら出ないままインタビューは終了してしまうのだ。それは、彼が異端の棋士であると知るのに十分な内容だった。将棋世界2023年8月号に全文記載されているので、ぜひ一読をお勧めしたい。

 そんな彼の指す将棋は、やはり異端だった。2021年12月17日新人王戦トーナメント、狩山幹生四段-塚田惠梨花女流初段。デビュー戦となる一局で狩山が選んだ戦型は相掛かりだった。相掛かりは高確率で不定型の力戦になる。それが狩山の狙いだ。はたして前例のない展開となった。
 中盤、狩山は銀を前に出し、銀立ち矢倉の形を作った。そして玉を囲いに入れる。手厚い方針だ。そして77手目、狩山はぐいと金を押し上げた。更には玉も前に進む。さながらラグビーのスクラムのように、金銀玉一段となってじりじりと前進していく。目指す先は、相手陣。入玉だ。そうなればもう玉は寄らない。
 そう、狩山は始めから攻めて勝とうとしていないのだ。

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