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恩田さん、やっぱすごいよ『spring』


非凡な才を持った人のことを「天才」と書くのは簡単。でも、作家さんたちは、読者に”どうすごいのか”と”凡人とのちがい”を伝えなきゃならない。そんな風に考えてみると、そこに作家の技みたいなものを感じます。


springの主人公は「よろず・はる」という男の子。成長して男性になっていく、幼少期からの過程が描かれています。まさに「非凡」の世界にいる男の子なのだけれど、世界的なバレリーナの卵たちの中で彼を描くわけなので、天才や秀才を一通り描いた上で、さらにアタマひとつ秀でたところのある彼を造形しなきゃならない。いやほんとすごいよ恩田さん。
一章を読んだところでもう、世界から集まった若者たちがどれだけスゴい子たちなのかがわかり、そこでもう彼らの未来を楽しみにする自分がいました。

考えてみたら、コンクールという場でしのぎを削った『蜜蜂と遠雷』もそういう世界でしたね。
私的には音楽以上に縁がないバレエの世界ですが、冒頭から一気に引き込まれます。彼らの跳躍は空が見えるようだし、彼らの指先にはスポットライトがあたっているよう。
本を読み終わるまでは、一切書評もインタビューも読まないぞ、と決めていましたが、恩田さんがどれだけバレエを好きなのか、どれだけの研究をしたのか、そういう裏側がこれから読めるのも楽しみです。

身長が伸びればバランスは悪くなり、恋をすれば心が不安定になる。大人たちも様々に移ろい年をとる。
彼らも別れと出会いを繰り返しますが、それらは決して泣かせるための装置ではありません。直面した壁に打たれる人も、乗り越える人もいます。しかし、選び取った未来がどれであってもすべて愛おしいほどの輝きに満ちています。それが何より心を揺さぶります。
この本の中にしか出てこない演目が多いのですが、まずはバレエを観たい。そしてこのHALのバレエの世界を観てみたい。芸術の神の存在を感じたきらめくような小説でした。

『蜜蜂と遠雷』が好きだった方には絶対読んでほしい


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