見出し画像

『高瀬庄左衛門御留書』の作者の新作『藩邸差配役日日控』

初めて読んだ作家の本で、がつんと何かに打たれるような衝撃を受けるということがあります。それは本読み&本売りにとっては何者にもかえがたい瞬間。その作家が新人だったら「ここから世に出る経緯を見ていける」という気持ちになるし、すでに何作か書いている作品だったら遡って色々読むものがある、という出会いを喜べる、というわけです。
時代小説でいくと、乙川優三郎さんの『霧の橋』を読んだ時、葉室麟さんの『銀漢の賦』、山本兼一さんは『火天の城』を読んで『白鷹伝』に戻りました。『高瀬庄左衛門御留書』を読んだ時はまさにそんな感じで、そこから新作を追っかけてます。

砂原さんの小説は、静謐な空気の中に、ほとばしるような熱が混じり合う空気を持っている、と思っています。今回は連作短編なので、これまでの作品よりは軽めですが端々にそういうところがあり楽しめました。話はミステリ仕立てになっているので「NHKドラマの原作に向いてそうだな」と映像を意識して読み進めました。

内容は、現代で言うならば総務部長が奮闘するような小説です。家族のために、藩のために、守るべきもののために自分の道を確かめながら歩く主人公に心惹かれました。

現代で描くとコンプラ的にヤバそうな案件になってしまうのが、武士がやると、胸アツの物語になります。やはりもっともっと時代小説には頑張って欲しい。現代を舞台には表現できないものの活躍の場がここにはある、とそんなことを考えています。

ところで、、、砂原さんの小説がもっと売れるために足りないものは、タイトルのわかりやすさじゃないかと思います。本屋さんに買いに行って、読み終わるまで結局タイトルを言えるようにならず、砂原さんの新刊、と言い続けていた私。もう一冊発売されたら「新刊」って言えなくなるんだけどどうすりゃいいんだ。

***


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?