【映画レビュー】『散歩屋ケンちゃん』:現実と虚構が入り混じるアバンギャルドな作品
もうすぐ閉館になってしまう映画館に、ぜひ行っておきたいと思い、上映中の映画を調べたら、この映画が1週間限定で上映されていました。どんな映画なのだろうと、正直わからなかったのですが、いろんな意味で、とても印象に残る作品で、観に行ってよかったと思いました。
「人」が魅力の映画
もちろん、物語もあるし、登場人物の設定もある。でも、この映画を観ているときは、どうしても「あれ、この人!」という感じで、役を演じる役者の実人生が浮かんできて、オーバーラップしてしまう。
見終わって感じたのだが、この映画の魅力はやっぱり「人」ではないかと思う。役の上での人、そして役を演じている人、その両方が区別がつかなくなってくるような感じがとてもおもしろい。
ドキュメンタリーではないので、現実の人の姿を見たり知ったりする映画ではない。でも、なぜか、この映画を観ていると、出てくる人の実人生が気になってしまうのだ。
役と現実がオーバーラップする
まずは何といっても、主役のいしだ壱成さんと、そのお父さん役の石田純一さんである。役の上で親子で、この映画の中心となるテーマである。だが、映画を観る人には実際の親子関係が頭に浮かばずにはいられない。それを切り離せという方が無理である。でもきっとそれでいいのだと思った。
映画には、銚子電鉄の社長や社員も登場する。それも本物なのか役なのか、混乱してくる。きっと本物なんだろうなと思いながら観ていた。一方で、流暢に英語を話す運転手さんが出てくるが、この方は本物かと思ったら役者さんだった(元JR車掌さんなのだそうだが)。そういうことを気にせずにはいられないのだ。
あとは、虚言壁のある老人役で登場するのが、歌手の友川カズキさんだった。この映画を観るまで存じ上げなかったのだが、ドキュメンタリー映画も作られているような、個性的な歌手であった。出てきたときから、単なる役者ではない感がプンプンしていたので、やっぱりなと思った。
そして、ビッグ錠さん。ビッグ錠さんは、あの『包丁人味平』などを描いた漫画家さんだ。この方の存在は、この映画にとってあまりに大きすぎるので、ここでは割愛する。映画を観れば、どういう意味かはわかってもらえるはずだ。
私がいちばん印象に残ったのは、佐伯日菜子さんだった。バーのママの役で登場するのであるが、変な意味ではなく、とても生々しくて素敵だった。佐伯日菜子さん自身の魅力に改めて気づかされた。そして、「こんな店があったら行きたい!」と現実世界での願望を抱いてしまった。
これ以外の登場人物もすべて、そんな感じだった。映画の中の役だけでなく、演じている人の現実での姿が、なぜかオーバーラップせずにはいられないのだ。
何重にも虚構と現実が入り混じる
物語自体は、何か大きな事件が起きたり、ドラマチックの起伏があったりするわけではなく、緩い感じである。私はそういう話は好きなのだが、もしかすると、物足りない人もいるかもしれない。
でも、実は、その物語自体も、次第に虚実がないまぜになっていく。映画のストーリーと、そのストーリーを作っている話と、そして、現実という3つの次元が入り混じってきて、よくわからなくなってくる。
最後などは、なんとマンガで……。詳しくは映画を観てほしい。
そのように虚構と現実を攪乱させることが、意図的なのかどうかはわからないけれども、前衛的な作りにさえ思える。
おそらくそんなに予算をかけておらず、手作り感が満載の、微笑ましい作品だけれども、侮ってはいけない。ある種、アバンギャルドな映画である。
この映画は、銚子電鉄100周年を応援する映画だそうです。何かと話題になっている銚子電鉄。こんな大胆な映画を作ってしまうなんて、やっぱりすごいかも。ぜひ一度乗ってみたいと思いました。
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