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【映画レビュー】『四畳半タイムマシンブルース』:明石さんというヒロイン像

 アパートで起こる大学生たちのたわいもないドタバタ騒動が、タイムマシンの出現によって、自分たちの存在を危うくする危機に変わっていく。話はあちこちに飛んでいくが、ラストに向かうにつれ、最初のドタバタにもそれぞれ意味が与えられ、ひとつにまとまっていく。爽快感さえ感じるほどの見事な展開だった。


明石さんの魅力がこの映画の魅力

 しかし、この映画の大きな魅力は、ヒロインの明石さんによるところが大きいと思う。原作者の森見登美彦さんも、一番のお気に入りキャラとして明石さんを挙げ、「どうしようもなくかわいい」と言っている。その魅力に迫ることが、この映画の魅力を解き明かすことになるように思う。

 明石さんは、なぜそんなに魅力的なのか。厳密にいうと、ある種の男性はなぜ明石さんに惹かれるのか。

神秘的で崩れない女性

 まず、明石さんは、ひょうひょうとしている。自分の道をマイペースに進む。そして、風貌は凛とした美人であり、流されたり、媚びたり、崩れたりしない。

 こういう女性はどこか神秘的である。近寄りがたくもある。全貌が見えないからこそ、逆に、惹かれてしまうのだ。

「私」を好きになってくれる女性

 そして何よりの魅力は、主人公の「私」のような人間を理解し、嫌がらず、好意まで持ってくれることだ。変なものや情けないものも蔑まず、淡々と受け入れる。むしろ変なものを愛してくれる(と期待させる)。

 多くの男性は、「私」のようにさえない人生を送っている。さえない自分に自信をもつことができない。当然、女性にもてるとは思っていない。筆者もその一人である。バラ色にモテモテの男などそうそういないし、そういう人は明石さんには惹かれないかもしれない。

 つまり、謎めいて近寄りがたい女性が、さえない自分のような人間のことを好きになってくれるかもしれない、そんな願望を満たしてくれるヒロインなのである。そう言ってしまうと、自分勝手極まりない気もするが、自己の願望を投影できることは、映画の大きな魅力のひとつだと思う。

魅力を体現する造形の見事さ

 映画の明石さんは、そんなヒロイン像を体現しているキャラクターとして描かれる。髪型、顔立ち、服装……、理想的である。こんな女性がいたらいいのにと思わせる。もちろん現実に出会える可能性はまずないであろう。それがわかっているからこそ、明石さんに惹かれるのかもしれない。

 ラストは、ドタバタが終わり、みんなで中華料理店に打ち上げに向かうシーンで終わる。青春っていいなあとしみじみ思った。目まぐるしく進みながらも見事に収斂していくストーリー展開は拍手喝采だが、この作品の核は、やはり青春だと思う。明石さんと「私」との恋の成就もほのめかされ、それがなんとなく裏切りのようにも思えて青春の終わりを感じさせる。そういう意味で、ちょっと切ない物語のように思えます。

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