徳田秋声「青白い月」感想、最後に焼きついていた風景
読み終わった最初の感想は、「なんだったんだ?」
なんの説明もなく物語は始まり、特に山場もなく、淡々と、幸せだけれどもどこか悲しい家族の話が、古風な語り口で綴られてぽんと終わった。
だけれど面白くなかったかと言えば全然そんなことはなく、続きが気になるような、ドキドキさせるような内容ではないと思うのにページをめくらずにはいられない魔力がある。なんだこれは。なんだこれ?初めて読んだよこんなの。
主人公は血の繋がらない甥(作中では姪と表記されており私の混乱を誘った)と風光明媚な観光名所などを回り、後半はさらに甥の妻も加えて神戸に行ってみたりするのだが、そのへんの風景を主人公はすべてつまらないと感じている。失望しただの薄っぺらだの嫌な名所臭の鼻の衝くだのと散々で、どうした?心の病気か?疲れてるのか?とツッコミを入れていた。最初は。
地名やら建物の名前やらちょっとした描写やらで美しい風景を連想した瞬間に、次の文がすべて灰色にぼかして擦りガラスの向こうに追いやってしまう。感想文で比喩表現が多くてどうするんだという感じではあるのだが、私が感じたことを素直に書くとこうなるので許して欲しい。綺麗な風景を否定されてしまって、ああ、もったいない、という気持ちになるのだけど、そのうちなんだか主人公の失意に共感してきてしまって、やっと家族について説明が始まる頃にはもう虜だった。
そんなわけで文章のなかの大半の風景は主人公によって否定され、そのせいなのか、読み終わって、なんだったんだ?と思いながら頭の中に残ったのは、なんでもない、建物も少ないところの道だった。
夜、月影に照らされた道路、浮かぶ月、草むら、甥の桂三郎。
「青白い月」
青空文庫の、さらにそれをスマホで読めるアプリの「ソラリ」というのを利用しているのだが、読了ボタンを押すと、読む前の画面に戻ってタイトルが表示される。
月影の道路が頭に浮かんだ状態でそのタイトルをみて、してやられた、と思った。なんで?とか聞かれても困るけど。なんだったんだ?の気持ちのままに作品名を検索してどういう状況で書かれたのか調べようとしたがよくわかんなかったので、先にこの感動を文にしなくてはという衝動の方から片付けた。そうしてよかった。なんか、主人公結局年齢も職業も名前もわからんけど、いいかな、それで。という気持ちになってきた。いいんだよな。だって、面白かったもん。
というわけでこれから私は徳田秋声の他の作品を読み漁ーーりたいところなのだが、実を言うと課題がめちゃくちゃやばい。ぶっちゃけ読みはじめたのも現実逃避8割だったんだけどまさか逃避先がこんな面白いとはな。今日中に片付けなきゃいけない課題が一文字も書けてないし、明日までに終わらさないといけないのも二個あるし他にもいろいろとにかくめちゃくちゃやばいので、他の小説を読むわけにはいかない。愚かな自分に怒りすら感じる、感想文は感動パワーで書いてたけどここは怒りパワーで書いてる。ちくしょう…ちくしょう…!!
最後に、読むきっかけになった徳田秋聲記念館の寸寸語を書いてる人(たくさんいるなら皆さん全員に!)に感謝を。
文アルは友達が好きなゲームくらいの認識で自分ではやってないけど、文アル関連で流れてきた寸寸語の愛溢れる記事は大好きで、こんなに愛されてる人の本読んでみたいな、と思って出会えたので。ほんとありがとう。
読みてえけど課題頑張るわ!じゃあな!!
ちなみに画像は、文章中の家族関係を表す一文が全然理解できなくて家系図に起こそうとがんばったもの。画像これくらいしかなかった……。(ネタバレかも)
ちなみにちょっと悩んだ後導き出した(おそらく)正解がこれ↓
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?