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新型コロナウイルスや次期介護報酬改定という名の自然淘汰の幕開け

明確な論点整理に基づいた主張を期待

6月から給付費分科会も再開され、来年の介護報酬改定に向けた議論が本格化し始めました。

今回の給付費分科会で気をつけなければならない点は、

A:新型コロナウイルスの影響に関わる主張
B:恒常的な介護業界を取り巻く経営課題に関わる主張

を混同しないよう訴えかけていくことが重要だと思っています。
要するに、A:新型コロナウイルスの感染拡大防止に関わる利用自粛などによる減収分を補填して欲しいといった訴えと、B:今の基本報酬ではこのような有事に対応できない(内部留保を積み増せるほど経営に余裕がない)こと、は分けて主張する必要があるということです。

Aの主張については、国は新型コロナウイルス対応に柔軟に対応できるよう特例で施設基準や配置基準を緩和しましたが、あまりにも現場へ丸投げの施策のため、ほとんど活用されていない(かえって利用者、家族からの不満や不信につながるリスクの方が高い)というのが実態ではないでしょうか。

この部分については、臨時的な対応が求められるため、有期限での主張が望ましいといえますが、いつまで継続されるのかについては国は明確にしていません。

一方、Bの恒常的な主張の方は、例年であれば、国が行う”介護事業経営実態調査”による経営指標が年末にかけて発表され、最終的な介護報酬が決められる手順となります。
2019年度の決算書を踏まえた調査となるため、利用自粛に関わる2・3月と4・5・6月の影響がまぶされてしまい、関係団体からの主張が雲に巻かれる可能性があるのではないかと感じています。
各関係団体で新型コロナウイルスの感染拡大防止による影響度調査を行っていますが、「基本報酬を上げろ」「減収分を補填しろ」といった主張はそう簡単には通らないと思うので、敵対関係になるような関係団体ヒアリングは避けて臨んでいただきたいと思っています。

参考に、東京都社会福祉協議会の東京都高齢者福祉施設協議会で実施した調査結果を貼り付けておきます(客観性という点では少し偏ってはいますが、自由記述欄には今後の新型コロナ対策の方向性として必要な主張に関わるエッセンスがあるので参考にしてください)。

厚労省の役人が机上で鉛筆なめなめして決めた施策が、現場では全くの役立たずだということが、現場のトップのリアルな声として上がっています。
私が関わっている実態調査においても、特例処置の利用実績を把握し、より良い施策となるよう訴えかけていく根拠(エビデンス)づくりに貢献したいと思っています。

利用再開に向けた情報発信や安心材料の提供

このような状況ではありますが、国はセンサーなどのテクノロジを活用したより少数でのケアの提供ができる生産性の向上やデータベースを活用した科学的根拠のあるケアの確立についての主張は取り下げてはいません(こういう状況だからこそ、強化すべきというスタンスです)。

この点については、Bの恒常的な主張との折り合いをどうつけていくかがポイントになると思います。
3:1基準より多い配置をしている目的や経営管理の状況をプラス面で評価するとともに、加算の取得状況を踏まえたサービスの質の向上という点についても評価されるべきと思います。
介護保険制度の持続可能性や地域包括ケアの推進などの介護業界を取り巻く揺るぎない方向性は変わらないということが確認できましたので、今のうちから準備に取り掛かっておくことをお勧めします。

自粛ムードが緩和した矢先、東京都内では夜の街における感染者が増加傾向となり、近隣県が警戒感を示しています。
経済活動が再開される中、福祉現場はまだ油断を許さない状況が続きます。感染リスクを遅れて、利用を控える方もいらっしゃるでしょう。
しかし、その危機感(危機意識)はいつになったら払拭されるのでしょうか(緊急事態宣言が解除されたからといって、感染リスクがゼロになるわけではないのです)。

逆にいえば、皆さんの施設や事業所がどのような感染防止対策を講じ、利用者や家族に安心材料を与えられるかが重要といえます。
例えば、面会はZOOMなどのオンライン面会に限定します、職員の体調管理の徹底、3か月間の有期限で感染リスクを組織的に管理するといった取り組みを行っていることを発信するだけでも安心材料となるでしょう(そうした取り組みをきっかけに、新たな課題に気づき、改善につながったという話もありました)。
デイサービスやショートステイの利用率が軒並み低下している状況がありますが、いかにV字回復できるかは、そのための働きかけをどう行っているかにかかっています。
また、職員に対しても同様の働きかけが必要と言えます。

新型コロナの影響を吉と出すか、凶と出すか

施設や事業所は心情的に新型コロナの影響による減収補填や介護報酬の基本報酬のアップを期待したいところです。
法人合併の話を持ちかけられたといった話を耳にしますので、社会福祉法人の生き残りについても、シビアな状況といえます。

個人的な意見ですが、そのような状況とはいえ、国が基本報酬をそう簡単には引き上げないのではないかと思っています。
"社会福祉連携推進法人"という名のM&Aが進めば、量(約2万法人)より質(1.5万→ゆくゆくは1万法人へ?)に舵取りをし始める以上、恐竜が絶滅したように、今回か次回あたりの報酬改定で自然淘汰を仕掛けてくるのではないか、とも考えられます。
経済が低迷すれば、社会保障費の原資を捻出する当てもないわけですから、この新型コロナの影響が吉と出るか、凶と出るか…、現状維持が良いところと言えなくもないでしょう。

こういった状況だからこそ、国や行政に対する他責経営から、自責経営を確立しなければなりません(たとえ経営層が国や行政のせいにしても、職員からしたら経営層に対する不平不満・不信でしかありません)。
内部統制(ガバナンス)を強化し、自立・自律経営ができる社会福祉法人が生き残るフェーズに突入したといえます。
意図的に新型コロナの影響を吉と出すか、凶と出すかは、自立・自律経営の成果といえるでしょう。
社会福祉業界においても、弱肉強食の世界で生き残る術を身に着けることの重要性がますます高まっているといえます。

管理人



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