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介護・看護配置3:1基準を考える


最近は、LEGO®️SERIOUS PLAY®️関係のツイート多めですが、本業である福祉経営についても取り上げていきましょう。

「生産性向上」=職員配置なのか

介護人材不足が深刻化する中、「介護業界の生産性向上」というスローガンの元、あーでもない、こーでもないという議論が繰り広げられていました。
まだまだアナログな業務プロセスの多い介護を含む福祉業界において、「生産性向上」という方向性には賛成ですが、何をもって「生産性向上」を評価するかという視点が軽視されている感が否めません。

以前もお伝えしましたが、私が担当している特養実態調査でも、「生産性向上」の視点として、介護・看護配置3:1基準に注目しました。
各施設の人員配置から介護・看護配置の状況をグループ化し、手厚い職員配置(1.7:1や2.0:1)と人員が不足している施設(2.5:1や3.0:1に限りなく近い)とを比べると、手厚職員配置の施設の方が経営的も良いという結果が出ています(以下、「次世代の福祉サービス化と介護・看護配置基準(3:1)の緩和論を考察する」からの抜粋)。

仮説として、以下の3つを立てて分析を行いました。
①職員を手厚く配置している施設のほうが、受け入れ態勢が充足しているため利用率が高い
②人件費を構成する「職員人数×賃金水準」において、職員を手厚く配置している施設の方が賃金水準は低い
③職員配置を手厚く配置している施設の方が、人件費率が高く、収支差額率 0%を下回る赤字施設が多い
分析結果として、
①職員を手厚く配置している施設の方が、利用率 95%を超える施設が多い傾向を示した。
②職員配置が不足している施設の方が賃金水準は高い傾向を示したが、職員配置が手厚い施設においても 35 万円~45 万円の範囲で支給しており、労働分配率 80~100%を下回る水準で職員に還元している結果となった。人件費率でみると、職員配置が手厚い施設は 65%~70%である。一方、職員が不足している施設は 70%を超える施設もあり、人件費のうち、派遣職員費が経営を圧迫していると考えられる。
③収支差額率をみても、職員配置が手厚いからといって収支差額率 0%を下回る赤字施設は少なく、経営を考えた職員配置を適切に行っていると考えられる。一方、職員配置が不足している施設の方が、受け入れ態勢を十分に確立できないために、利用率が低く、派遣職員の受け入れなどの費用が増加することで、結果的に収支差額率が 0%を下回る赤字施設となっており、介護・看護職員の配置状況と経営状況が密接に関連している結果となった。

ただし、職員人数が多くなるため、"職員一人当たりサービス活動収益(サービス活動収益計/常勤換算職員数(正規+非正規))"や"職員一人当たり給与費(人件費/常勤換算職員数(正規+非正規))"は低水準となります。
(100万円の人件費を10人で割るか(一人当たり10万円)、5人で割るか(一人当たり20万円)の違いです)

介護・看護3:1基準の現場とは

そんな中、国として施設の職員配置を効率化させるということが明確に打ち出され、「まずは基準通りの3対1で質の高いサービスが提供されるようにしたい」という思い切った発言がありました。
介護現場の皆さんからすると、「3:1で業務が回せるわけがない」という印象を受けるのではないでしょうか。
私もその意見に賛成です。

なぜならば、介護・看護配置3:1という職員配置が、現場でどういう状況を作り出すかという実態を認識していない、あまりにも現場軽視の発言と指摘せざるを得ません。
具体的に介護・看護配置3:1になるとどうなるかを試算してみましょう。

事例:定員90名の特養の場合
定員90名 ÷ 3:1基準 = 介護・看護職員30名
介護・看護職員30名 - 看護師3名 = 介護職27名
介護職27名 × 30日 = 810人
介護職27人 × 休日10日(公休104日+有休10日÷12ヶ月) = 270名
810名 - 270名 = 540名
540名 ÷ 30日 = 18名(うち、夜勤・明け8名)
18名 - 8名(夜勤・明け) = 10名
4フロアの場合、1フロアあたり2.5名となります。

すなわち、普通に仕事をして、休みもとってするだけで最低でも2.5名でシフトを組まないと現場は回らなということになります。
私が携わっている調査においても、職員が不足している施設は派遣職員を受け入れて、不足分を補い、現場を回せる人員配置に近づけている施設が多くみられます。

機能強化と共に体制強化・報酬の妥当性を

よって、国がいう介護・看護配置3:1基準というのは、特養の機能が度重なる介護保険制度や報酬改定を経て、重度化・医療対応しなければならない施設になる以前の基準であり、国の概況調査結果でさえ2:1という結果を考慮すれば、介護・看護配置3:1基準を緩和するのではなく、より厳格化していく必要性があると感じます。
(なお、介護事業概況調査結果における特養(介護老人福祉施設)の結果のなかで、利用率が100%を超えているという疑わしい数値が含まれていますので、鵜呑みにしないよう注意が必要です)

これまで福祉関係団体は物申しても、その根拠(エビデンス)が示されず、返り討ちされてきた過去があります。
国民が「おかしい」という声を上げたおかげで、多額の税金が投入されていた「桜を見る会」は中止となり、これまでのずさんな管理の実態も明るみになりました(「幅広く募っているという認識で『募集』という認識ではなかった」って、国政の長が何言ってんだか)。

「生産性向上」の方針は賛成ですが、是非、実態に即した「生産性向上」を勝ち取り、事業の継続性を担保できるよう、介護報酬の妥当性についても給付費分科会を通して声を上げていこうではないでしょうか。

管理人


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