#3 梟よつらくせ直せ春の雨 一茶
「七番日記」から、梟は春の季題。
鳩、いけんしていはく
梟よつらくせ直せ春の雨 一茶
《鳩が諫めて言った
《梟よ一癖有りそうな顔つきを直しなさい。春の雨がほのぼの降っているだろう。
「つらくせ」とは、「面癖」、つい心の内が表情に出てしまう癖のことです。
これは、人ごとではなく、自分もそうで女房や子供から、しばしば注意を受けています。
仏頂面。胡散顔。浮かぬ顔。託(かこ)ち顔。賢し顔。鹿爪顔。しかめっ面。渋っ面。
何と多彩な面癖だろう。
いくら言葉をとり繕っても、無意識に出てしまう表情を直すというのは、なかなか難しくて自分のことながら困ったものです。
一茶もそういう自覚があったのでしょう。
一茶も俳諧で世を渡る人でしたから、門人やら贔屓筋やらとの付き合いは、決して気楽なはずは無かったでしょう。早く母を亡くし、継母と関係もつらいものがあったでしょう。江戸に出てからの俳諧修行だって・・・。そうした多分不条理不如意の辛酸を舐めたとしても、一茶は角が取れて丸くなるような人では無かったと思います。むしろ、いよいよ現実への向き合いかたは、厳しい心を持ってしたと思います。人によっては、ひねくれ者なんて云う人もいたりします。
それでも、顔に出る癖というのは、やはり、人によくない印象を与えるものだから、この句では、鳩の口を借りて、梟になぞらえた自分を諫めているのでしょう。
一茶は、梟好きであったようです。
きそ始山の梟笑ふらん 文化句帖
梟の分別顔や梅の花 文化句帳
梟よ蚊屋なき家と沙汰するな 七番日記
梟が拍子とる也小夜ぎぬた 八番日記
梟も一句侍れ此時雨 七番日記
梟が小ばかにしたるづきん哉 七番日記
これら、すべて梟を人のように扱う擬人法の句であるのが、一茶らしくて、自分としては好きです。