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【ア・冬優子イズム】を読む

※この記事は性質上2024年7月30日に実装された【ア・冬優子イズム】のネタバレを含みます。

今回の目標:サクッと書く

哲学的モチーフ、過去の名作からの引用、そして過去コミュの再演。シャニマスのコミュの読み応えを高めている要素の中にこういった技巧が存在することは間違いないが、その量は加速度的に増加しており、もはや個人の、それも素人の趣味の範疇で全てを攫うことは不可能に近い。ましてや、その意味合いはシナリオが追加される度に変化していく。そんなものをカードが実装される度に試みるのは、生業でもない限り割に合わない。そうだったとしても、最早複数人の集合知によって正解を探査していくべき段階にあるとすら言える。
 これは正しい知識と理論に則った読解が無意味ということではなく、自分の能力を遥かに超えた問題に当たったときにそればかりに囚われて本来やりたかったはずの単純な感情の発露まで忘れてしまっては本末転倒だという話である。
 というわけで、過去コミュ要素っぽいところや何らかの引用、モチーフっぽいところが見つかっても「なんかそんな気がする」でサラッと流していく。これは私の感想を陳述するための書き捨てであって、「読解」は他の何かに譲る。


前説

 とりあえず、過去に私がふせったーの方に垂れ流した最近の冬優子コミュに関する感想を纏めていく。暇だったら適当に読んでください。特に新規性はないです

STEP

【三文ノワール】

【ノンセンス・プロンプ】

【紅茶夢現】

 早い話が、STEPまでの彼女のテーマは「自己の受容」であった、ということを言っている。そして、【三文ノワール】以降、彼女は思い出や人気、需要といった他者からの認知について戦っていくことになる。それは三文ノワールでは『映画女優への道』というかたちで現れ、ノンセンス・プロンプでは『寂れた遊園地』というかたちで現れた。こうして彼女は目まぐるしく過ぎ去っていく現実という時間の中でそれらと向き合い、エゴを再獲得していくのだと思っていた。
 ところが、予想外なことにシャニマスはそんな悠長な展開を許さなかった。【ア・冬優子イズム】において彼女の前に立ちはだかったのは、もっと直接的な『アイドル黛冬優子の「真の姿」を求める人々』だった。

カード名について

 やはりパッと関連が思いつくものとして、初期のpSR【ザ・冬優子イズム】と、本カードが排出されるガシャの題名が「人情回帰線」であることから、【浮遊回帰線】が思い起こされる。ちなみに、ひとつ前のpSSR【ノンセンス・プロンプ】の4コミュ目の題名は「周縁回帰」である。どうやら「回帰」というワードを強調したいらしい、程度の認識をしていこう。今回はだいたいこれぐらいの粒度で話をする。

1コミュ目

 「三人称虚数」喫茶店で仕事の話をする冬優子とPと先方の人と、それを見守るオタクふたり。最近の冬優子のコミュはこの「喫茶店で誰かが話しているのを別の誰かが見る/聞く」構図が妙に多い。で、だいたいモブの心無い台詞に冬優子が心を痛める。ワンパターンだと言いたいのではなく、冬優子は元々それぐらいナイーブな人間なのである。
 今回だって、別にしなくていいのに(今後の人気を考えた計算の末ではあるが)こっそりファンサをしてしまっている。で、結局そういう気の使いすぎなところで消耗している。どこまでも優しくて律儀で、そんな性格をした人である。

2コミュ目

 「波はいつも余白を目指す」めちゃくちゃ単純に考えれば、求められるがままに自分の形を変えてしまいがちな冬優子のことを指すが、細かいことは考えない。誰かが読んだままに思えばいいので。
 ストレス解消の名目で食べ歩きをするふたり。実質的にほぼデートではあるが、【紅茶夢現】のTRUEなどでも似たようなことをしている形跡が見られる。また、後ほどこれはシャニPの心労を思っての行為であることが示唆される。結局、また誰かに気を使っている。
 やはり印象的なのは「生半可なことじゃないんだから ものを作るってことは」という台詞である。デザインを学び、オタクコンテンツに精通し、セルフプロデュースにも手を回した冬優子から出る台詞としては非常に納得感の高いものではあるが、今回冬優子が依頼されている件は「アイドルがデザインした」という名目さえあれば最低限面目が立つことは暗に伝えられている。そのうえで、本職の人に失礼のないように自分にできることを全力でやろうと言うのである。シャニPがこの律儀な子に対してモノローグでキショい独白をするのも無理もない、といったところである。

3コミュ目

 「イリイズム再考」イリイズム:自分のことを三人称で呼ぶこと、また、そこから自分を見つめ直すこと。だそう。
 デザインの仕事をするにあたって、「自分の根源(内面)を出してほしい」と言われた冬優子。そこに、「ふゆちゃんはこうだ」というファンの声が入ってきて思考を邪魔する。選択肢次第でわし座やキジバトといったモチーフが登場するが、ちょっと心当たりが無いので見なかったことにする。
 いずれにせよシャニPの言葉によって冬優子はこの問題への答えを掴むが、そうして出てきたのが4コミュ目の水着になってくる。4コミュ目の展開を見る限り、それはおそらく真の意味での「内面」ではない。多分、このカードを通して、あるいは今後しばらくの冬優子のコミュを通して問題になってくるのが、そういう話である。

4コミュ目

 「被膜境界線」またなんかくせ者なカメラマンが出てきた。【オ・フ・レ・コ】を思い出させる。なんか偽物の海×偽物の表情(アイドルの仮面)=真の姿、みたいなことを言う編集者が出てきたりとか意味深なことを言っているが、面倒なので盛大に投げ捨てる。
 冬優子の作ってきた水着は今までにない「妖艶」なものだとして、また本職の人間をも唸らせるほどの完成度のものだとして高評価を受ける。特に、冬優子がプールから上がった一瞬の表情に、カメラマンは魅入られる。
 言うまでもなく、これは結局「シャニPから見た冬優子」を意図的に外部へ表現しているに過ぎない。それを、可能性がいっぱいあるとか、普段の姿はプロフェッショナルすぎるとか、さんざん言われるわけである。平たく言ってしまえば、残酷な話である。

TRUE

 「わたしの名はばか」露骨に何かの引用っぽい香りがするが、例によってそれはスルーする。夜の駅前で自分のデザインした水着の売れ行きを見ながら会話する冬優子とシャニP。この背景も最近の冬優子コミュで頻出な気がする。ご丁寧にも立ち絵の衣装は【ザ・冬優子イズム】のものだったりする。
 「冬優子」を見せた水着が売れた=冬優子が受け入れられる可能性が示唆されたことに対し、それは正しかったのか尋ねる冬優子。シャニPからの返事はある程度前向きだったが、露骨に挿入されるモブ作業員が話はそう簡単ではないことを暗示している。そして、冬優子の独白。細かい真意は考えないことにするが、冬優子にとって「嘘」は大事なエネルギーらしい。それがシャニPの言葉なのか、自分の言葉なのか、あるいは最初にアイドルを目指した理由にあるのか、細かいところは例によって置いておいて、重要なのは、冬優子はそれぐらい、なんだかんだでなにかに縋っていないと今の状態を保つことができないというところにある。これはパラコレで顕著に表現された部分だが、STEPを終えて自己受容の第一段階を終えた冬優子にとって、更に次の段階へ進むには新たな燃料が必要なのは事実なのだろう。
 だから、元々の優しい気質と合わせて誰かの需要には全力で応えようとする。映画業界へなびきそうになるし、ファンサは欠かさないし、必要とあらば「ふゆ」を投げ捨てることすら考えてしまう。そんな危うさこそが、これから彼女が立ち向かうべき問題で、見るものに彼女を支えたいと思わせる原動力になるのだろう。
 ……ところで、この先本当にファンの需要に従って「ふゆ」を捨ててこの水着を着た「冬優子」が出てきたとして、それが別に「真の黛冬優子」かと言われると全くそんなことはないという問題がある。今までの「ふゆ」に比べれば遥かにニュートラルな状態に近いだろうが、シャニPやストレイのメンバーに見せている「冬優子」でさえ、本音を100%言っているわけではない(これ自体は冬優子に限った話でなく、多くの人間がやっていることではあるが)。これは母親に対する態度などを見ても推察できる。
 そもそも彼女は、もともと自分の本名と振る舞いを関連付けられることすら嫌がるような、繊細で臆病な人物なのだから。

突然のトワコレ

 すなわち、「ふゆ」を捨てるほどの勇気を振り絞ったところで、それで終わりかどうかはかなり怪しい。結局、ようやく自己受容の始まった、彼女の持つ彼女自身だけが知っているはずの「自分」を受け入れるそのときまで、問題は終わらないのだろう。
 トップアイドルになるのが先か、切り落とす自我が尽きるのが先か。あわよくば、その結末を目にしたいものである。
 つまるところ、我々(無意味な主語拡大)は黛冬優子のこういった強さと弱さの同居したどこまでの真摯な姿に心を打たれて、彼女に共感し、応援し、そして期待を乗せる。劇中の彼女はそうやって乗せられた期待に振り回されているわけなのだが、トップアイドルを目指す以上この理不尽な期待からは逃れられない。何とも残酷で意地悪で、明快な構図である。
 そして、今までそれを意地と矜持で跳ね返してきた冬優子だからこそ、次だってきっと……と、期待してしまう。この我々が勝手に見る冬優子像こそが【ア・冬優子イズム】なのである(適当なそれっぽい総括)(たぶん違う)。

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