行政書士試験2011問30紙上解説~法定地上権の問題の判断の仕方
今回は、法定地上権に関する2011年問題30を紙上解説していきます。
まず初めに、法定地上権の成立要件を確認しましょう。
成立要件(388条)
1 抵当権設定時に土地の上に建物が存在していること
2 抵当権設定時に土地と建物が同一人所有であること
3 土地、建物の一方または双方に抵当権が設定されたこと
4 抵当権の実行により、土地と建物が別人所有になったこと
法定地上権の問題の場合、まずこの要件をきちんと思い出せるようにしておくことがなによりも重要です。
あたえられた事例が、成立要件のどれに該当しているかいないかを判断し、法定地上権の成否を検討する必要があるからです。
その際に、まずこちらのどの条件に当てはまっているかを先に検討してください。
実は、このどちらかの判断基準に当てはめれば、ほとんどの問題は回答することが可能です。
1 2011年問題30肢3
たとえばこの肢をみてください。
AがBから土地を借りてその土地上に建物を所有している場合において、Aは、その建物上に甲抵当権を設定したが、Bから土地を取得した後に、さらにその建物に乙抵当権を設定した。その後、Aは、甲抵当権の被担保債権について弁済できなかったので、甲抵当権が実行され、その建物は買受人Cが取得した。この場合、この建物のために法定地上権は成立しない(肢3)。
こちらの肢は、先順位の甲抵当権設定時に土地がB所有、建物がA所有となっていました。後順位の乙抵当権の設定時にはどちらもA所有になっています。
そして設定先は建物ですので、乙抵当権設定時に要件を満たしていたかどうかで判断すればよい。
乙抵当権設定時には要件を満たしていますので、法定地上権は「成立」です。この肢は「成立しない」としているので、誤りです。
2 2011年問題30肢2
次にこちらの肢をみてください。
AがBから土地を借りてその土地上に建物を所有している場合において、Bは、その土地上に甲抵当権を設定したが、Aから建物を取得した後に、さらにその土地に乙抵当権を設定した。その後、Bは、甲抵当権の被担保債権について弁済したので甲抵当権は消滅したが、乙抵当権の被担保債権については弁済できなかったので、乙抵当権が実行され、その土地は買受人Cが取得した。この場合、この建物のために法定地上権は成立しない(肢2)。
この肢は、抵当権が甲抵当権、乙抵当権とふたつ設定されています。そして設定先は土地です。
ですから、先抵当権の設定時に要件を満たしていたかどうかで判断します。先順位の抵当権は、「甲抵当権」です。設定時は土地がB所有、建物がA所有でした。つまり成立要件2を満たしていません。
ここまでであれば、「不成立」になるのですが、この肢はもうひとつ条件が加わっています。それはBが甲抵当権の被担保債権を弁済して、甲抵当権が消滅しているというものです。
そうなると、抵当権実行時には「乙抵当権」のみが存在しますので、抵当権者がひとりのときの判断基準で判断できます。
よって、「成立」です。この肢は「成立しない」となっているので、誤りです。
3 2011年問題30肢4
次にこちらの肢をみてください。
Aが自己所有の土地と建物に共同抵当権を設定した後、建物が滅失したため、新たに建物を再築した場合において、Aが抵当権の被担保債権について弁済することができなかったので、土地についての抵当権が実行され、その土地は買受人Bが取得した。この場合、再築の時点での土地の抵当権が再築建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたなどの特段の事由のない限り、再築建物のために法定地上権は成立しない。(肢4)
もともと土地と建物両方に同じ被担保債権のために抵当権が設定されています。この時点では、土地と建物はどちらもA所有ですので、成立要件を満たしています。
ただその後、建物が取り壊されましたので、建物に対する抵当権は消滅しており、土地に対する抵当権のみが残っている状態に変わっています。
今回のように、土地と建物に共同抵当が設定されている場合、抵当権者は土地建物全体の担保価値を評価しているはずです。ですから建物がある以上は法定地上権の成立は容認できるでしょうけれど、建物が滅失した以上、のこった土地に対する抵当権は土地全体の担保価値を把握している、いいかえれば更地としての担保価値を把握していると考えるのが、抵当権者の認識にそった判断といえるでしょう。
したがって、あとから建物が再築されたところで、その建物のために法定地上権の成立は認められません。よってこの肢は「正しい」です。
もちろん再築の時点での土地の抵当権が再築建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたというように、最初の状態に戻したのであれば、「成立」でよいですね。
4 2011年問題30肢5
今度はこちらの肢を見てみましょう。
AとBが建物を共同で所有し、Aがその建物の敷地を単独で所有している場合において、Aがその土地上に抵当権を設定したが、抵当権の被担保債権について弁済できなかったので、その抵当権が実行され、その土地は買受人Cが取得した。この場合、この建物のために法定地上権は成立しない。(肢5)
この肢は建物が共有になっています。
この場合、こちらの判断基準を使いましょう。
この肢は、建物がAB共有、土地がA単独所有です。とすると、建物のための法定地上権の成立は共有者Bにとってもプラスになります。
というのは、BのようにAの土地上に建物を所有している場合、日本ではほぼ「賃貸借契約」で対応しています。
ですからBが持っている権原は、「賃借権」=「債権」です。
それが法定地上権という絶対性のある「物権」に変わるというのは、Bにとっても悪い話ではないですね。
ですから、法定地上権は「成立」です。よってこの肢は誤りです。
5 2011年問題30肢1
最後はこの肢です。
Aは、自己所有の土地(更地)に抵当権を設定した後に、その土地上に建物を建築したが、抵当権の被担保債権について弁済をすることができなかった。この場合において、抵当権者が抵当権を実行して土地を競売すると、この建物のために法定地上権は成立せず建物は収去されなければならなくなることから、抵当権者は、土地とその上の建物を一括して競売しなければならない。(肢1)
抵当権者がひとりで、しかも更地に設定していますので、法定地上権は「不成立」でしょう。
その後建物が建てられていますが、法定地上権の成否には関係ありません。
ただ競売にかけるにあたり、土地の上に建物が建っている以上、一緒に競売したほうが買い手を見つけやすいこともあるかもしれませんね。
ということで、こういった状況のときには、まとめて競売する(一括競売といいます)ことが認められています。
もちろん土地だけ競売してもかまいません。389条1項本文も「競売することができる」としており、「競売しなければならない」わけではありません。
ですからこの肢は「誤り」です。
6 まとめ
いかがでしたか?
判断基準と成立要件を思い出せるようにしておけば、あとは事案への当てはめだけで回答は可能です。
ひとつひとつの判例の結論を個別に覚えるのはやはり大変ですし、単純に暗記しているだけだと絶対に混乱します。
ぜひこの判断基準を使いこなして、法定地上権の問題が確実に判断できるようになりましょう。
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