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『仮面のロマネスク』メルトゥイユ公爵夫人の衣装論

 突然なのだが、わたくしこの度宝塚歌劇団雪組2024年全国ツアー『仮面のロマネスク』を、静岡と名古屋で見てきた。なんで二回みたかというと、この演目が宝塚の中でもめちゃくちゃお気に入りだから。
 この作品はフランス文学の『危険な関係』(ラクロ作)を宝塚風に焼き直した作品で、原作とは時代設定と結末が違う。(原作の最後についてはこの記事の最後にネタバレ。)
 『仮面のロマネスク』の舞台は王政復古のフランス。ジャン=ピエール・ヴァルモン子爵とメルトゥイユ公爵の未亡人フランソワーズは、かつての恋人同士。ヴァルモンが令嬢セシル、そしてトゥールベル法院長夫人マリアンヌを手に入れれば、再び私を差し上げるなんてメルトゥイユ公爵夫人が言い出したがために、危険な恋愛遊戯が始まってしまう。あと誰か忘れてるな。主要な登場人物としてセシルに恋する若者ダンスニー男爵がいました。
 『危険な関係』自体は何度も映画化されていて、朝鮮王朝バージョンや香港バージョンなど、色んな時代や国に置き換えたバージョンが作成されている。貴族の恋愛ゲームだから、封建的社会ならどこでもありうる話なのかもしれない。日本だって、平安時代の絵巻物として作ったらとても面白いと思う。ヴァルモン→臣籍降下したイケメン元皇子(そう、光源氏のような)、メルトゥイユ→東宮の未亡人(六条の御休所のような)、トゥールベル夫人→とある公卿の後妻の北の方、セシル→右大臣の姫で入内予定、とかね。

 さて、『仮面のロマネスク』自体に話を戻すと、何度も再演されているので4バージョンある。

雪組大劇場 高嶺ふぶきのサヨナラ公演(メルトゥイユは花總まり)
宙組全ツ 大空ゆう飛と野々すみ花
花組全ツ 明日海りおと花乃まりあ
同上 明日海りおと仙名彩世

私はこれらを全部映像で見ていて、この度大好きな夢白あやがメルトゥイユに登板ということもあり、現地参戦するしかない!と観劇。

 細かい感想は置いておくとして、今回観劇して気づいたのは、メルトゥイユの衣装が違う!ということ。いや、ヴァルモンの衣装も新調されてたのかも知らんが。メルトゥイユといえば、な赤と紫の毒々しいドレスはデザインほぼそのままでポスターにも登場した。あとトゥールベル夫人との紅白歌合戦の赤ドレスもおそらくそのまま。(ヴァルモンとも紅白歌合戦してましたが、あのドレスはピンクがかってましたね。)しかしいくつかのドレスが別のものに差しかわっていた。
 例えばメルトゥイユの紫エリマキトカゲみたいな寝巻き。ただの紫フリル寝巻きになっていた。前のやつはエリマキトカゲすぎてセシルがヴァルモンに抱かれたとか頭にはいって来なかったからいいと思う。いや、問題はエリマキトカゲではない。ラストシーンの「二人だけの舞踏会」で着ているドレスなのだ。
 大劇場公演だった初演はさておき、全国ツアーで該当シーンにメルトゥイユが着ているのは、クリーム色の胸に大きなリボンのついたドレスだった。このドレス、メルトゥイユにしては少女趣味がすぎるのだが、これを「色々悪どいこともしてきたけど最後に童心に帰った」「あなたの居なくなる今日、私の命も終わるので、親のいうままに結婚させられた14.15才の頃に戻りたい(ちょうどセシルぐらいの年)」という意味なのだと解釈していた。
 みんなメルトゥイユが綺麗だからなんだかんだで忘れてるかもだけど、元彼ジェルクールへの復讐とかいってその婚約者ってだけで従姉妹のセシルをヴァルモンに襲わせてるからね。結果的にトゥールベル法院長夫人を弄んで捨てさせてるからね。だんすに~😆とハッピーエンドのセシルはまだいいとしてトゥールベル夫人出家しちゃったからね。あの姐さんヤバいんよ。そんな人が最後プリティドレス着てくるのよ。
 ところが夢白メルトゥイユは違ったのだ。二人だけの舞踏会で、夢白メルトゥイユが身を包むのはライトグレーの光沢のあるドレス。大人っぽく、プリティなクリーム色デカリボンドレスより、よほどメルトゥイユに似合っている。https://shop.tca-pictures.net/shop/g/g2240431302443/
 グレー、という色は綺麗なのだけれど、イメージ的には薄汚れているというか、あまりいいイメージはないと思われる。けれど制作側はラストのメルトゥイユの衣装に、パステルカラーでも鮮やかな色でもなくグレーのドレスを持ってきた。これをどう解釈したらよいのか?
 メルトゥイユは最後の方で、「私は愛にまで仮面をつけてしまったわ」と言っている。最後に行われる二人だけの舞踏会では、メルトゥイユは仮面を脱ぎさっているはず。やはりグレーという色の持つイメージのまま、色々悪いことをやってきたメルトゥイユは「汚れを知ってしまった」大人だということではないだろうか。けれど、そんな薄汚れた自分のありのままを、最後にはヴァルモンに晒すことができた…(まあヴァルモンは元から知ってるけど)ということなのだと私は勝手に理解した。
 結論からいうと今回のグレードレス、私はめちゃくちゃしっくりきた。この解釈もありだなというより、こちらが正解なのでは?(プリティドレスよりよほどしっくりくるもん。だってあれセシルが着てそうじゃない?)もちろん、単に夢白あやにグレーが似合うと思って制作側は着せたのかもしれないが…(アクセはチョーカーじゃなくてネックレスの方が夢白あやのデコルテの美しさは映えると思ったが。)

(メルトゥイユがいくつぐらいなのかは不明である。原作も読んだけど忘れた。なんとなく30~アラフォーぐらいなのかなあと。でも仙名彩世によると宝塚版のトゥールベル夫人は24才らしいから、メルトゥイユも案外若いのかなあ?)
 
 そして今回のかめろまMVPは、トゥールベル夫人マリアンヌを演じた希良々うみだと思う。こんなに大きな役をやっている所を初めてみたけど、演技も歌も良くて好きになった。台詞回しもくどくない。輪郭とか芸風が仙名彩世に似ていると思う。(主演二人はわりとコテコテの台詞回し)その他、あーさはヴァルモンじゃなーいと思っていたけど意外とヴァルモンだったし、ジェルクール将軍は歌があれだけど若いのにがんばってたと思う。
 けど愛知県立芸術劇場、おまえは許さん。数々の先人があの劇場のB席の酷さを書いているから今さらなのだけど、ほんとにあの座席は売ってはいかんだろうと。コンサートならいいかもしれんけど、お芝居で舞台の半分見えないて許すマジ。手すりの棒を15センチ下げろといいたい。
 
 ちなみに、原作は、
ヴァルモン→決闘で死亡
メルトゥイユ→裁判に負け天然痘にかかり財産も美貌も失う
マリアンヌ・トゥールベル→恋に苦悩して衰弱死
セシル→出家
と誰も幸せにならない。香港版も最後にヴァルモンのチャン・ドンゴン死んでたと思う。これを宝塚風にアレンジしてメリーエンドぐらいにし(まあ初演はヴァルモンのサヨナラ公演だからってのもあるけど)なおかつエンタメとして面白く成立させた柴田御大はやっぱりすごいのだ。もう当分仮面のロマネスクをやらないかもしれないが、次は月組でちなつ&あましでやってほしいなあなんて。

 おわり。

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