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私を構成するライブ6選(後編)

前回の続き、イクゾー


④ドミコ (@仙台enn 2nd 2018/9/28)

ドミコを知ったのは確か、大学の軽音部の先輩がツイートしてたのを見て…だったと思う。「こんなのおかしくない?」という曲だ。

じつは、ドミコとのファーストコンタクトの時は「ふーん」くらいだったのだ。気だるげでかっこいいなー、くらい。
しかし。なんかまたあの曲聴きたいな。再生。あのギターリフが頭から離れんな。再生。…を繰り返しているうちに、気づいたら直近に仙台であるライブのチケットを取っていたのであった。

このライブは配信シングル『ベッドルーム・シェイク・サマー』のリリースに伴う対バンツアーで、この日の対バン相手はトリプルファイヤー。開場前にライブハウス付近をうろついてたら普通にボーカルの吉田さんがふらふら歩いててびっくりしたのを覚えている。
トリプルファイヤーのライブはこれまたすごかった。かっちりとした演奏に、やる気があるのかないのかわからんボーカル、いやボーカルというより「Reading」って感じ。めちゃくちゃ変なフレーズがループするギターと、ファンキーなベースとドラムのリズム隊。拍子も一筋縄ではいかない感じで、ベーシストの方が常にドラムの方を凝視しながら弾いてるのがゆらゆら帝国の千代さんやレディオヘッドのコリンを彷彿とさせる。
とりあえず、こちらの動画を見ていただければと思います。


そして、ドミコである。セッティングのためにさかしたひかると長谷川さんが現れ、準備を終えるとそのまま開演。
トリプルファイヤーで異様な空気感になった会場を、轟音が切り裂いた。

もう、まじで、びっくりするほどの轟音だった。雷が落ちたのかと錯覚した。
当時、僕は大学で9mm Parabellum Bulletのコピーバンドをやっていたのだが、そのバンドで"Cold Edge"の最後のカオスパートを演奏しているときの音量とほぼ同レベルの音が、なんと二人だけで、しかも1曲目から鳴らされたのである。

"Pop,Step,Junk!"、"ロースト・ビーチ・ベイベー"、"マカロニグラタン"など、もうとんでもない中毒性メロディな曲がMCほぼ無しで連打される。

そして特筆すべきはドラムの長谷川啓太氏である。「死ぬど!!(CV:千鳥ノブ)」という突っ込みが入ってしまうくらい、ものすごい気迫でドラムをしばき倒すのである。

ドミコをご存じの方は知っていると思うが、ドミコのライブは"ルーパー”という、録音したギターフレーズをループ再生するエフェクターを駆使してパフォーマンスを行う。
ギタリストならわかると思うが、ルーパーとは使いこなすにはなかなかに訓練が必要な機会なのである。難しいのはリズムキープ。ギターを弾くテンポと、ルーパーのスイッチを踏むタイミング、これ実は地味に難しいのである。

そしてなおかつ、ルーパー使用者を要するバンドのドラマーはまた大変だ。行ってしまえばバンドメンバーという人間のみならず、「ループ再生されているフレーズ」という機械的な存在にも合わせて叩かなければならないのだ。

…にもかかわらず、長谷川氏は完璧なテンポキープをしながら、同時に野性味あふれる爆裂ドラミングも両立させるという信じられない所業を成し遂げているのだ。マジで死ぬど。

そしてギターボーカルさかしたひかるはカリスマだ。激しくギターをかき鳴らし、ルーパーを駆使して重厚な音世界を作り上げる。マイクをダルそうに掴んで奔放に歌う。そのしぐさ全てがロックスターに必要な色気を纏っていて、クラクラしてしまうほどかっこよいのだ。
「センキュウ~」「東北、また絶対くるんでぇ…ぼくも東北出身なんでぇ…いや、やっぱ来ねえかもしんねぇ」と、MCはゆるゆる。そこもまた彼の魅力なんである。

さかしたひかるの色気、長谷川氏の鬼ドラム、そして中毒性しかない曲たちを味わううち、もう完全に脳はドミコに支配されてしまっている状態。ドミコの事しか考えられない。ドラッグ中毒者ってこういう気分なのかな…なんてことを考えているうちにあっというまにライブは終わってしまった。

終演後、爆音で耳がキーンとする中夜の繁華街をひとり歩いたのは良い思い出だ。
この日以来僕は完全にドミコ中毒者。2018年、2019年あたりのApple Music再生回数トップは『hey hey,my my?』だったし、ギターを手にするとつい無意識に"こんなのおかしくない?"のリフを弾いちゃう。

終演後天下一品でラーメンを喰らい、ああ美味いな…と思いながらふとこの感覚どこかで…とデジャヴを感じ、すぐ答えに行き当たった。ついさっきのドミコのライブだ。
味わっている間はもうそのことしか考えられない、そして何度でも食べたくなる…。

ドミコの魅力って何?って聞かれたら、
「天下一品のラーメンみたいなもんです」と答えるようにしている。


⑤NUMBER GIRL (@ARABAKI ROCK FEST、2022/4/29)

こちらはナンバガ関係ない、ストレイテナーの開演を待ってる時の写真です。いいちことアラバキの相性は最高。


この年のアラバキはまだ声出しやノーマスクが解禁される前の時期であった。
かといって楽しくないかなんて聞かれたら絶対そんなことはなく、アーティストたちは珠玉のパフォーマンスを見せてくれたし、周りのお客さんも声が出せないなりに喜びを噴出させていた。「無言喜び表現のプロ」が集結していたと思う。

そしてこの年のアラバキの圧倒的ベストアクト、それがナンバーガールであった。

ナンバーガールとの出会いとか、偉大さについては、それを書いてるともう永遠に文章が終わらないので割愛する。たぶん、僕より上手く語れる人がごまんといるだろうから。

ちなみにこの日のタイムテーブル、「折坂悠太」→「NUMBER GIRL」→「ASIAN KUNG-FU GENERATION」という、意味わからんぐらい豪華なタイムテーブルだったのだ。特にナンバガからのアジカンって。頭おかしい。日本のギターロック史という名の川を、源流の方からカヌーで漕いでもらってる感じ。

なんと機材セッティング→音だしの段階でメンバーがふらりと現れる。
というわけでこの日行われた「向井秀徳サウンドチェック劇場」をご覧頂こう。

(バンドでジャカジャカ音を鳴らす)

向井「ボーカル、すこし下げてください」

(音鳴らす)

向井「ボーカル、下げでお願いします」

(鳴らす)

向井「きもーち、ほんの数ミリ下げて」

(ジャカジャカ)

向井「それでは、サウンドを、チェックいたしましょう」

"水色革命"演奏 (!!!!!)

1番のみ演奏し終了

向井「ボーカル上げてください」
(ここでちょっと待てぃボタンが押される)

ノブ「上げるんか!!!??」
大悟「なんやったんさっきまでの問答は」

(VTR再開)
(サウンドチェックが良い感じに終わる)
向井「それでは…また、来週!お会いしましょう!」
(観客爆笑、メンバーハケる)
(ちょっと待てぃボタンが押される)

ノブ「何なんそのユーモア!?」
大悟「なんでサウンドチェックで爆笑取れるん?」

(VTR終わり)

はい。ということで開演です。

「福岡市、博多区からやってまいりましたナンバーガールです」という、Youtubeの画面越しにしか聴いたことのなかった、というか聴けるわけがないと思っていたあの口上。そして、「ドラムス。アヒトイナザワ!」

ああ、もうこの時点で。もうだめだった。感情が爆発した。
"OMOIDE IN MY HEAD"を、ついに生で聴いてしまった。

のっけからまわりの観客も熱狂だ。見る限り僕と同じように「ナンバガ好きだけど後追い」的な世代の人たちが多いように見えた。隣にいた女の子は1曲終わるごとにセトリをメモしていた。
"ZEGEN vs UNDERCOVER"、"EIGHT BEATER"とセトリは容赦ない、バリヤバセトリで、中尾憲太郎47歳は大暴れ。アヒトイナザワは一般的なドラマーの枠をぶち破った、まるでギタリストがソロを弾いているかのような爆裂ドラム。田渕ひさ子は小柄で華奢な体を捩るようにしながら、刃物のようなギターを轟音で鳴らす。死ぬ、死んでしまう。ひさ子に殺される。本望すぎる。

そして向井秀徳。もう、チューニングで「ジャーン」とやってるだけでもう向井とわかる音。弦高を極端に下げた(ギターマガジン情報)テレキャスから鳴らされる軋轢サウンド(命名:向井秀徳、これもギタマガより)は、一般的な"バッキングギター”の枠に収まらない。これほど存在感の強いギターボーカルのギター、ちょっと他に例が浮かばない。

「あなたもいつか…透明少女になれる!」(向井)からなだれ込んだ"透明少女"では、なぜかわからないが、眼鏡の向こうの景色が滲んで見えた。
「透き通って見えるのだ…」のところのギター、好きすぎてライブ映像を見るたびにそこばっかり巻き戻して観てしまう習慣が僕にはある。
繰り返すが、画面越しにしか見ることのできなかった音楽が、今、目の前で!!爆音で鳴っているのだ!!!伝わるか!?この感動!!!

"TATOOあり"のソロも、家で何度も聴いた。
アラバキの大自然で聴く"TATOOあり"、もうとんでもなかった。あの音で肩こりとか腰痛とか絶対治ると思うので、厚生労働省あたりは田渕ひさ子に話聞きに行った方が良い。

「皆様、本日はこうしてお集まりいただき、本当にありがとうございます」と、丁寧に感謝の言葉を述べる向井。

「アラバキ。アラ、バッキィ~!!!」
(観客爆笑)
(ちょっと待てぃボタンが押される)

ノブ「お前ら向井がやる事ならなんでもええんか!?」
大悟「ワシ芸人やめて弟子入りしたろかな」

(再開)

最後に鳴らされたのは"I don't know"であった。
さっきから死ぬだの殺されるだの書いてきたけど、ここでほんとに死にました。
ドラム、ベース、ギター×2、ボーカルが渾然一体となり、「お前を音楽で殺す」という確信のもと突撃してくるのである。そういう曲だし、そういうバンドなのだ。
向井の咆哮を聴きながら思わず空を見上げてしまった。ちょうど夜になり始める、といった感じの時間帯で、薄い藍色の空を見上げながら、ああ、いい人生だったな、と思った。

宮城県川崎町の「エコキャンプみちのく」には、きっと今でも僕の死体が埋まっている。


⑥Radiohead (@ SUMMER SONIC、2016/8/21)

長々とほんとにすみませんでした。ようやく最後です。

大学1年の夏。人生初のフェス参戦と人生初の一人旅、それが2016年のサマーソニックだった。

高校3年生の受験期、僕はレディオヘッドに嵌り始めたころだった。憂鬱なバスの中で『OK Computer』の1曲目"Airbag"、あのイントロのドッシャドシャに歪んだギターに心を射抜かれてから、めちゃくちゃ聴いていた。受験期の陰鬱なメンタルとバッチリハマったのだった。

そしてなんとその直後くらいの時期に、レディオヘッドがサマーソニックで日本に来る、という発表があった。しかもサカナクションや、これも当時ハマっていたTwo Door Cinema Clubも来るというのだ。

え?これ俺のためのフェス?

確信を抱いた僕は思い切ってチケットを取った。
大学に入り、慣れない独り暮らしや友達ができない大学の毎日をどうにかやり過ごして当日を迎えた。

この人生初のフェスの思い出はそれだけでnote1冊書けるくらいなのだが、それはまた今度ね。

サカナクションがひとしきり盛り上げたあと(レディオヘッドの前にひと踊りしましょう!と一郎さんが言っていた)、レディオヘッドがいよいよやってくる、ということで異様な雰囲気になっていたマリンスタジアム。その時僕は暑さにやられ、ふらふらになっていた。

なおかつセッティングに手間取っているのか、定刻になってもなかなか始まらない。だんだん観客もイラつき始める。

そんな空気感を切り裂くようにステージが暗転し、一気に周りは暴動状態となった。フェス初心者の僕はもみくちゃにされた。だから1曲目の"Burn The Witch"はまともに聴けなかったし、メンバーの姿も全然見れず。

2曲目"Daydreaming"からようやく暴動がおさまり、やっとレディオヘッドと向き合う。ああ、いたんだ。マジで存在するんだ、と思った。

信じられなかったのが、4万人近い人間が集結したマリンスタジアムで、「今、レディオヘッドは俺のためだけに演奏している」という気分になったことだ。まだ2曲目なのに、だ。あの静謐なピアノを聴いていたら、周りの人間は消えてしまった。

5曲目あたりまでは新譜の曲が演奏され、観客もおとなしかったのだが、"2+2-5"から一気に覚醒。
そして、あの歪みまくったギターが鳴る。先述の"Airbag"である。
もう、倒れそうだった。一瞬、あまりの出来事に呆然とし、そのあと一気に感動が押し寄せてきた。

そこからはもう、信じられないくらいのセトリ。トムヨーク以外のメンバーが皆パーカッションを手にシャンシャンやる中(バカ語彙のアホ表現ですみません)、トムの美しい指弾きのギターとファルセットボーカルの"Reckoner"、バイトがつらいときなどに聴きまくった"No Surprises"、コリンのベースが唸りを上げ、まるで戦車のような迫力の演奏の"The Natinonal Anthem"など…。

この日のトムヨークは「コォンバァンワァ~~(謎のビブラート)」とお得意の日本語を繰り出したり「フウウン…ンハァー!!」などと意味不明の唸り声、叫び声を上げたり。あれはいったい何だったのか。しかしMCの挙動不審さが嘘のように、ボーカルは圧倒的に美しく、少しのブレもないのだ。

最後は何と"Everything In Its Right Place"から一気に"Idioteque"に突入するというヤバすぎる展開。当時の僕は『KID A』より圧倒的に『The Bends』や『OK Computer』派だったので、「おー、セトリすげー」くらいの感じだったのだが、社会に出て、労働という名の化け物に身も心も食い荒らされた今の僕は『KID A』こそが至高、世界はクソ、レスポール低く構えて人生最高、仲間最高、希望はあるぜ!みたいなこと歌ってるメロコアヤンキー、あるいは赤いテレキャスでくっだらねぇセフレとの関係とかをモヤシみてぇな声質で囁いてる奴ら、全員死ね…てな具合なので、このライブ、マジでもう1回観たい。

さて、アンコールである。ヤバいのはここからである。

Radioheadの代表曲は?と言われると、ガチのレディオヘッドファンは一曲に絞れないよとかいや曲単位で聴いてないしアルバム単位で聴くしだの、どうのこうの言っちゃうと思うが、まあそうでもない洋楽好きはこれだ、と答えるだろう。

この曲がラジオ中心にヒットするも、そのほかの曲はあんまり受けず…だったデビュー当時の彼ら。ライブをしてもみんなCreep待ちでほかの曲なんて聞いちゃいない、という状況があったものだから、いつしかCreepは代表曲でありながらメンバーにどんどん嫌われていく。

名盤2ndアルバム『The Bends』リリース後はCreepだけの一発屋のイメージを見事払拭した彼らだが、依然Creepはセトリから徹底的に外されがちだった。

日本のバンドで例えると、バンプが天体観測を封印するとか、アジカンのゴッチが「リライトなんてクソだよ」とかTwitterで言っちゃうみたいな感じである。

そんな中、である。

レディオヘッドは2003年にもサマーソニックで来日を果たしている。

この日の彼らは、何があったのかわからんがとにかく調子が良かった。
前日のサマソニ大阪でもかなり抜群の演奏を見せていて(youtubeにあるはずなので探してみてね)、オーディエンスのリアクションも上々。気分よく翌日東京公演に臨んだ彼ら。

東京ももちろん最高の演奏であった。新譜の曲と代表曲を織り交ぜたセットリストで観客をバッチリ掴んだ彼ら。気難しいイメージのトムヨークも機嫌良くオーディエンスを煽る。

そして、アンコールの最後に"Karma Police"というアンセムを届け、観客みんなで合唱し、大団円。


…のはずだった。ステージから去らないバンド。「Thank you,very,very,very…」とトムヨークは何度もお辞儀をする。そして…

"Creep"が演奏されたのだ。

もう、大歓喜大混乱の客席。トムは微笑みながらそれを見つめつつ、歌う。ジョニー・グリーンウッドのあの「ガガッ」というギターも鳴り響く。トムはどんどんテンションが上がっていき、泣いてるんじゃないか、というくらい感情を込めて歌う。

スタンドで座ってみていた客も、このときばかりは総立ちだったそうだ。
この「Creep事件」はサマソニの歴史の中でも語り草になるほどのトピックで、サマソニ常連の音楽マニアたちも2003年のサマソニこそ最高、神回、と言っているとかいないとか。
ちなみにその「Creep」の動画はこれです。


前置きが長くなった。時を戻そう、2016年のサマソニに。


アンコールでまずはトム以外のメンバーが登場。
すると、おもむろにセンターのマイクに近づくジョニー・グリーンウッド。

「キョウハ、アツイデスネ」


まさかの、である。ジョニーグリーンウッドの肉声を聞いてしまったのである。

レディオヘッドに詳しい方ならご存知かと思うが、ジョニーはとにかく寡黙、コーラスなんて絶対しないしMCなんてもっとありえない、というひとなのだ。ただひたすら手元を見てギターをかき鳴らすか、モジュラーシンセをいじいじしてるか、ピアノをエモく弾きまくるか、みたいな人なのだ。

レディオヘッドを知らない人にこの奇跡を説明するとすれば、「クララが立った」的な感動と、「ヤムチャが敵を無事倒した」くらいのありえなさ、というところだろうか…。

そしてTシャツ姿で現れたトムヨーク。
「チョット、タカイデスネ」とこちらも日本語で対抗してくる。

一気にゆるい空気になったが、ジョニーが弾き始めたアルペジオで空気一変。
『OK Computer』収録の"Let Down"だ。

あまりの美しさに、これ聴きながら死にたい、っていう曲みなさんにもあると思う。…あるよね?

僕にとってこれがそれだ。アンコールはじめのゆるい空気からのこれだったから、感情が追いつかない。心臓がバクバクいっていたのを覚えている。やばい、聴けてしまった、やばいやばい、という大変な感情であった。

つづけて2曲演奏され、それらも良かったのだけど、この後に起きた事件で、記憶がもういっぱいであまり覚えていない。

下手側に控えるエド・オブライエンがGの音を鳴らした。

なんか、聞き覚えあるな…

ちょっと周りがザワザワする。
それを察したのかトムヨーク、「イエス!」と囁く。そしてドラムの4カウント。


あの日、マリンスタジアムに集まった推定3万人、全員の感情の大爆発が起きた。


"Creep"だった。


「無意識に叫ぶ」という経験をしたのは、このときがはじめてだ。

あのジョニーグリーンウッドの「ガガッ」が鳴り響いた瞬間。
「点と線がつながった」と思った。

第一志望はおろか第二志望にすら落ちた大学受験、失意の中始まった大学生活、慣れないバイト、できない友達。

2年生以降にはなんとか挽回できたのだが、大学1年生の頃はなかなかに苦しかった。

その苦しみは、この瞬間のためにあったのだ、と本気で思った。

第一志望に受かってようがたぶんサマソニには行っていただろうけど、まあとにかく。

受験期〜大学1年生のみならず、今までの人生であったつらいことすべて、この瞬間のためにあったのだと。なぜかわからないけど霞んでいく、視界の先のトムヨークを眺めながらそんなことを思った。

後で映像を見返したら、この時のトムヨークは2003年の鬼気迫る様子とは打って変わり、非常にゆるく、楽しそうに歌っていた。歓喜する我々を優しい目つきで見つめながら。あれだけ嫌っていた曲を、だ。それにもまた感動した。

"Creep"で大団円…と思いきや、そうさせないのがレディオヘッド。余韻に浸らせる間も与えず、レディオヘッド屈指のロック"Bodysnachers"のファズギターが轟く。全身でテレキャスターをかき鳴らすジョニーグリーンウッドのかっこよさがいまだに目に焼き付いている。

「いつも暖かく迎えてくれてありがとう」とトムヨークが挨拶をし、最後に届けられたのが"Street Spirit(Fade Out)"だった。これもまた、僕が友達のいない大学に通うときに、毎日のように聴いていたアルバム『The Bends』の1曲。
俺のためかよなんて勘違いをしてしまうほどのすごいセットリストだったし、同じ勘違いをした人はあの場所に少なくとも1万人はいただろう。
それくらいすごかったんである。


僕はいまだに、この日のライブを越えるものを観たことがない。演奏のクオリティ的にも、個人的な思い入れ的にも、あまりにも全てが詰まったライブであった。

同時にこの日思ったのが、例えば"Airbag"のイントロが鳴った瞬間の感動は先述の通り。そのとき周りを見渡すと、同じように感動をしぐさや表情で表している人たちが無数にいたこと、これもまた感動した。俺の好きなものを同じく好きな人たち、理解者がこんなにもいるんだ、と。
こういう感動は家でライブ映像を観るだけじゃ絶対味わえない。




いや、長すぎる。


あなた、本当にここまでちゃんと読んでくれたんですか?


神なの?
ありがとうございます。


とにかく、僕は音楽が大好きだし、ライブを観に行くことが好きです。
人生最大の歓びであり、生きる意味と言っても過言ではない。


コロナが流行り始めた頃、ライブハウスの経営を守ろうという運動に対し「今そんなことしてる場合?」「エンタメは二の次だろ。バカか?」などといった冷たい言葉が飛び交っていた。

僕は本当に、驚いたのである。
このために生きていると言っても過言ではないものを、「そんなこと」だの「バカ」などと言えてしまう人もこの世には居るんだ、と。

あの時感じた絶望と悲しみは忘れられない。ライブハウス経営者でもないのに、あまりに落ち込みすぎてご飯が食べられなくなったほどだ。

ライブが普通にできるようになって、本当に良かったと思う。
仕事は相変わらずクソだし、毎日辞めたい、不労所得欲しい、働くくらいだったら死にたいぐらいに思ってるけど、音楽のおかげでなんとか生きていけている。

思えば僕は高校の時BUMPに出会うまで、音楽なんてほとんど聴いていなかった。というのに今やこんな音楽ジャンキー(自分で言うのはアレですが)である。人生とはわからない。

取り敢えず僕が生きながらえるために、レディオヘッドはまた来日してください。
臓器売ってでも観にいきます。


駄文に付き合ってくれた方、ありがとうございます。愛してる💕


おしまい

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