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光への道は遠く 『獄窓の雪 ー帝銀事件ー』

2023年11月8日(水)14時開演
@すみだパークシアター倉
¥15,000(3作品チケット)

前回の記事で書いた、連続上演のうちの2本目。
いさをさんが『夜明け前』が一番重いって言ってたけど、こっちもどっこいどっこいじゃんか~
吉展ちゃん誘拐事件とおなじく、アタシの生まれる前に起こった事件だけど、帝銀事件の方はパラドックス定数の『731』で扱われていたので概要は知っていた。(結局どっちも舞台で知った訳だが)2018年版『731』ってどんなんだっけと確認したら、ブログ書いてないじゃん。ふわっとした記憶しかない・・・。記事を書かなかった当時の自分の頭をはたきたい。

戦後間もない1948年1月、東京の豊島区にある帝国銀行椎名町支店に一人の男が現れ、言葉巧みに銀行員たちに薬物を飲ませ、合計12人を毒殺し、金品を奪う事件が発生した。
犯人として逮捕されたのは平沢貞通という名の画家だった。かろうじて命を取りとめた4人の銀行員の一人・村田正子は、一貫して「平沢は犯人じゃない!」と主張するが・・・。帝銀事件を生き残った銀行員たちの視点で描く。

公式サイトより

村田正子 堂ノ下沙羅
竹内 田島亮
吉田 三原一太
田中 杉浦一輝
芳子 桑島海空
トキ かんのひとみ
山田 酒巻誉洋
高木 妹尾青洸
居木井 藤井陽人
平沢貞通 中田顕史郎
裁判長(声) 坂元貞美

いやー、これもまた見応えずっしりみっしりであった。良かった。
警察も世論も平沢が犯人だと決めつけていた中、この話の主人公である村田正子はただひとり「自分に毒を飲ませたのは平沢ではない」と言い続けた。山田弁護士が後押しをしたとはいえ、その主張を貫くのはものすごい気力と勇気が要っただろうな・・・
会社から弁護をやめるように言われても断って。でもそれを理由に解雇されなくてよかった。
実際の彼女がどんな人だったのか、興味深い。また調べ出すと時間が溶けるので、先にこれを書いてしまおう。

『731』劇中では元731部隊の人間が帝銀事件の犯人だという描かれ方をしていたとおもう。今回の話でも、犯人は731や登戸研究所などの関係者だろうと捜査が進んでいたが、急にそれらが中止されたのだというくだりがあった。(登戸研究所はserial numberの『Secret War-ひみつせん-』で知った。これまた演劇で得た知識・・・)曰く、それらの機関の研究データをアメリカに渡し、捜査も禁止になった。そのせいでスケープゴートが必要になり、平沢が担ぎあげられたのだと。
それが史実なのかは分からないけれど、死刑が確定したのに執行されず30年以上収監されたまま、95歳で獄中死したという。そのニュースが流れた時はすでに成人していたアタシ、ほとんど記憶にない。興味がなかったんだな。

獄中で3,000点もの絵を描いたという平沢。ラストシーン、うす暗いなか静かに雪が降るシーンは胸に沁みた。その絵を見せて欲しかったなあ。著作権的に問題があったのかな。

『夜明け前』でもそうだったけど、役者の皆さんが全員素晴らしいので、めちゃくちゃ安心感。ノーストレスでドラマに没入できる。(田島くんがちょっとカミカミ星人になってたけど)
堂ノ下さんの演じる村田正子が素敵。昭和のしっとりした、でも芯のある女性。大好きな酒巻さん、いかにもな役。健気~。三原くん顔がぱつぱつですけど?!(ペナキリであんなにイケてたのに涙)支店長代理、キモかった。。そして顕史郎さん、ぴったりだった。かぎりなくグレーなんだけど、絵を描くことの情熱が熱くて哀しくて。

この回もアフタートークがあり、明治大学の山田朗先生(日本近代史、軍事史)がいらして興味深い話を聞かせてくださった。
戦犯裁判が行われていたのに、731や登戸などの毒薬や細菌兵器などで殺人を行った人物は、GHQにデータを渡す代わりに免罪されたという話、帝銀事件の実行犯は毒物とその致死量に精通した人物であること。
平沢と犯人の顔が似ているかどうかという点が捜査上で重要視されていたが、暗殺などのプロは人を騙す演技力もあるが、何より変装がうまいということ。特に実年齢より上に見せることは簡単らしい。なので、見た目が似ているかどうかは決め手にならない。このことが判っても、警察としてはそれまでの捜査が無駄だったかもしれないとは言い出せず、そのまま突き進んでしまう。そして真犯人(が他にいるとしたら)は野放しのまま。世の平和や真実などより面子が大事。(どこかで聞いた話だ)
平沢を追い込む検事役の妹尾さんが、実は平沢シロ派なので辛かったという話も。

同調圧力について。この言葉自体が一般的になったのは最近かもしれないが、この事件当時にすでにあった。村田さんのように自分の意見をきちんと言えることの大切さ。今の時代にこそ、これは違う、それはいらない、という意見を言わなくてはならない。でないと、いつのまにか言うことができなくなってしまうかもしれないという恐ろしさがある。

アフタートークの締めがコレだったんだけど、いまの世の中、かなり危ない気がする。
そしてこの後に上演する『好男子の行方』もまさにその同調圧力が大きく描かれているということで、田島くんは「先生のお話聞いて、演技プランちょっと変えようと思いました」と。え、ほんと? まさにそれを観る予定のアタシだけど、どこが変わったかなんて・・・初見だしわからんわ。でもどう変更になったのか、気になるなあ~~

↑山田先生の著作


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