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『ホテル・イミグレーション』 名取事務所

2023年9月16日(土)14時
@シアタートップス
¥4500(前売)

初めましての団体さん。
作・演出が詩森ろばさんと聞いて拝見。
入管問題のお話だっていうから重くて後味の悪いのかなあと身構えたけど、わかりやすくて共感しやすい部分も多い卑近な話だった。

STORY
離婚し、親に残してもらった家に住んでいる柴田春江は、入管収容施設から仮放免になったカンボジア人のヤンの身元を引き受け同居している。日本語もロクに話せない男を家に入れていると地元住民が問題視しはじめ、様々な問題が起こり始める。そんな中、父親が親権を持つ息子が半ば家出同然にやってくる。そして…。

公式サイトより

ウィシュマさんの事件から入管問題が一般的に知られる様になったけど、詳しいことを知っている人やきちんと理解している人はほんのわずかだとおもう。アタシもふわっとしか知らないけれど、脚本を書いたろばさん自身も何も知らなかったと驚いたそう。様々な社会問題を題材にした作品をたくさん作ってきた方でさえ知らないような、深く凝った問題がそこにあるんだろう。

春江は浮気を疑われ離婚され、親権も奪われて失意の10年を過ごした。ようやく社会と関わることに前向きになり、非正規滞在者を預かることに。
・・・これはすごい。見ず知らずの他人を家に置くなんて、なかなかできることじゃない。

けれど隣家の後藤(町内会長)がやってきて春江に文句をつける。「皆が迷惑してる、“外人”は追い出せ」「独身の年増が若い男を連れ込んで」など、ものすごい口汚さ。ハラスメントの一斉掃射。めちゃくちゃ腹が立った~~~!
しかも春江の親友・知子もワイドショーで聞き齧ったようなことを言うのだ。“不法滞在者”って悪いことをした犯罪人でしょ、外人がいると治安が悪くなるなど。やはり「みんなそう言ってる」と主語を大きくする。知子の場合は親友を案じて言っているんだけど・・・

後藤や知子の発言にも腹が立つけど、そんな彼らに強く出られず弁明もせず、困った顔でその場をやり過ごすような対応をする春江にもイラッとしてしまった。ヤンさんには「悪いから」「大丈夫」とふたりに言われたことをちゃんと話さないし。ヤンさん自身は「自分のことだから自分で対応したい」と思っていたのに。
10年前も浮気の疑いを晴らすこともできず、夫や姑のいい様にされ離婚されたんだろうと想像できた。

クルド人の夫を入管から解放しようと運動している水野のエピソード(アラフィフ女子3人の恋バナシーン、おもしろかった。赤裸々でおっと~~///となった。心の中で)、支援活動をしている弁護士のエピソード(非正規滞在者を預かるのに反対され、妻が活動を理解してくれているのではなく関心がなかったのだと分かった)なども身近で分かりやすく。

春江の息子・祐一。最初ヤンを春江の恋人と誤解してニヤついたり、政治に無関心すぎて与党・野党を知らなかったり(18歳でそんなことある?!)。選挙に行かないと言ってヤンに説教されたり。ヤンさんにとっては信じられないことだよねえ。
けれど事情が飲み込めてくると、春江とヤンに協力的になってきて(ええ子やん・・・)と春江と同世代のアタシは目尻が下がってしまったよ。
家を飛び出したのは父親か後妻と折り合いが悪いのかと思ったら、後妻からのセクハラだったというのもまた衝撃。よく逃げ出してきたとギュッとしてやる春江、照れ恥ずかしそうな祐一。う、おばちゃん今度は目頭が・・・
春江も少しずつ変わったのか、知子にバシッと言えたし。その後ちゃんと仲直りして。

そして事件が起こる。
町会長の息子がヤンと祐一の目の前で投身自殺をし、彼のカバンから中傷ビラがみつかる。春江の家に貼られていた、ヤンに対する中傷のビラだ。13年引きこもりだった彼に、「お前は隣のカンボジア人以下だ」と会長は言ったらしい。

これをきっかけにヤンは帰国を決意する。カンボジアでは命の危険もあるといって春江たちは引き止めるが、「日本にいると生きていられるが、心は死んでしまう」。ああ。
春江のいう「日本という国自体が入管施設みたい」というセリフに大きく頷く。
事態は何も好転しないし、問題は何ひとつ解決していない。苦い結末。ヤンが祖国に持ち込もうとしているもの(カンボジアのニュースなど、報道規制で現地では知り得ない情報)は、見つかればきっと捕まってしまうだろう。
ヤンが最後に言うカンボジア語での挨拶「また会いましょう」という言葉が、いつか実現することがあることを祈りたい。

この舞台を観て、自分が何も知らないことを知る。他にもいくつかの舞台で色々な問題を提示してもらった。舞台だけでなく、映画や小説、漫画など、たくさんの情報に触れてきた。この国は問題がありすぎる。もちろん国内だけじゃなく、世界中に問題が無数にある。暗澹たる気持ちになってしまう。
自分が知ることのできることなんて、ほんのわずかなのに。何かを解決・改善するための力になれることなど、自分には耳かき一杯ぶんも無いんじゃないかと愕然とする。それでも何か、できることをするしかないんだろうなあ。

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