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『ヒトラーを画家にする話』 タカハ劇団

2023年9月29日(金)18時
@シアターイースト
¥4,800

『おわたり』で10年ぶりに観たタカハ劇団、かなり良かったので次回公演もチケットを取った。昨年上演される予定だったものが病禍で中止になり、一年経ってキャスト変更なしで開演に至ったそう。昨年の時点で上演されていたら観られなかったので、巡り合わせよ・・・となった。

当日入場して鑑賞サポートの実施回だと気づいた。遅。
字幕タブレットや音声ガイドの貸し出しがあり、スタッフの方が案内などで忙しそうに立ち働いていた。ふたつ隣の方がタブレットを利用されていたけど、光などこちらからは全く見えなかったのでスゴイな~と感心。
上演中は手話通訳の方も舞台にあがり、キャストさんと同じように表情や身振りなどを加えて通訳していたのが興味深かった。

<あらすじ>
どこから間違えた?
進路に悩む美大生、僚太、朝利、板垣。
三人はひょんなことから、1908年のウィーンにタイムスリップしてしまう。
そこで彼らが出会ったのは、ウィーン美術アカデミーの受験を控えた青年、アドルフ・ヒトラー。
彼らは未来を変えるため、ヒトラーの受験をサポートすることに。
けれどヒトラーにはまったく絵の才能がなくて――
果たして三人は、ヒトラーを独裁者でなく画家にすることができるのか?!
人類の未来をかけた絵画レッスンが始まる。

公式サイトより

僚太の父は有名な画商だ。息子の絵の才能は大したことはないが審美眼は確かだと踏んで、ギャラリーを継がせようと目論む。たしかに僚太は作品を見た時に、良いものは光って見えるという。しかし彼は画家になる夢を諦めきれない。
僚太の同級生ふたりはとうに絵を諦め、朝利はデザイナーとして活躍中、板垣は教員を目指している。

美大生トリオがタイムスリップした先、1908年のウィーンで19歳のヒトラーと出会う。近代史に疎かった彼らはスマートフォンでヒトラーを調べ、後に独裁者となり大虐殺を行うことを知り驚愕する。それを止めるには彼を画家にすればその悲劇を回避できると算段、美術アカデミーの受験を成功させるべく奮闘する。

日本語が通じたり、スマホで通話できたりネットが使えたり。大きな歴史改変が起きればパラドックスが生じ、3人は元の時間軸に戻れなくなってしまう。改変の度合いをスマホのアンテナの数で計ったりと謎設定。(アンテナが減ると現代に戻れる可能性が減る)
SFとしては無茶苦茶がすぎる。でもそれらをぶっちぎって味わう、コメディ風味のポップな青春物語だった。
題材的にもう少し重い話かと思ったのに意外~~。もちろんそれだけじゃなく人種差別や時代の不穏な空気、女性の社会的地位、友情やほんのりとした恋愛なども添えられて。

ヒトラーと同じくアカデミー受験生のユダヤ青年・アロンは素晴らしい才能の持ち主だが、ヒトラーを合格させるためにアロンに受験を諦めさせようとする3人。彼を貶すべくデッサンを覗き込む3人の口からは、逆に賞賛の言葉が漏れてしまう。ちょっとした笑いのシーンなんだけど、板垣の「自分もこんな絵が描けたらな」という言葉には胸が傷む。
自分も絵を描く人間なので、劇中にはココロに響くセリフやシーンが。とりわけアロンがヒトラーに言った言葉が。

「誰も欲しがらなくても僕は絵を描きます。だって絵が好きだから」

うっ、痛・・・
これなんだよ、本当にね。
好きだから描く。
でもやはり認められたいという邪な欲求が、どうしても消せないんだ。だから辛いんだってわかってるんだけど。
アロンみたいに思えたらなあ。

3人が現代へ帰る日。僚太はヒトラーに「絵を描くことをやめるな、絵を好きな気持ちを手放すな」と言い残して別れる。
そして元の世界へ戻った僚太は、両親とギャラリーの客たちの前で画家になると宣言する。そしてそのギャラリーに展示されていたのが、アロンシュテファニーを描いた絵だった。

面白かったー!
食い止められなかった悲劇を考えると、もう少しビターな後味があってもいいかなとも思うけど。もともと高校生や若い人たちに向けて、ヒトラーについて知る機会をつくるために書かれた戯曲らしいので、入り口はこれくらい入りやすくて良いのかな。
どこかでチラッと見かけたが、昔のキャラメルボックスっぽいという意見にめっちゃ頷いてしまった。なるほど、キャラメルっぽい! タイムトラベルものだし、誰かのために頑張る主人公、ハートウォーミングな結末。ジュブナイルやアニメになりそうな話よな~~。

シリアスなベースもありつつ笑えるシーンもいっぱいあった。シュテファニーがタブレットをみつけてしまい、「この板、直感的に操作できる・・・!」って言ったのが一番笑った。
宿でトコジラミに悩まされる描写があったけど、観劇後にX(かつてのTwitter)でトコジラミが話題になっていて時代が100年ぶり返してる、と思ったり。

ふわっとしか覚えてないけど使われていた音楽も好きな感じだったし(オリジナル曲?)、けっこうな頻度使われていた映像も理解の一助になる感じ。ヒトラーのモノローグのシーンで渦巻く光は未来の不穏さを感じて胸がしゅんっとなった・・・

今回、学生役の方々は全員存じ上げなかったけど、みなさんとても良かった。フレッシュ!
特に良いなと思ったのはグストル役の方。ドルフィーのお守り役で柔和なイメージが佳き。(ちょっと志尊淳くんが演じてそうなイメージ。個人的な見解です)ふたりの友情、ほんのりブロマンスを感じて好物・・・。
相方?のドルフィー役の方も、几帳面で癇の強い感じをうまく出していた。
美大男子ズは昔懐かしのトリオ感がグー。元気な主人公、クールな2枚目、おっとり優しい系。

そうだ、OGの新進気鋭?アーティストが稔梨という名前で、前作『おわたり』の主人公と同じ名なのは、なにか意味があるのかな・・・と気になったり。

思い返してると色々書ききれないな~~
もし配信とかあったらまた観たいな。それくらい良かった。
僚太、画家になれるといいねえ。


斎藤僚太(美大・油絵学科4年生。実家は画廊)・・・名村辰
朝利悠人(美大・油絵学科4年生。プロダクトデザイナー)・・・芳村宗治郎
板垣健介(美大・油絵学科4年生。教員志望)・・・渡邉蒼
アドルフ・ヒトラー(愛称ドルフィー)・・・犬飼直紀
アウグスト・クビツェク(愛称グストル。ヒトラーの友人)・・・川野快晴
アロン・クラウス(ポーランド系ユダヤ人)・・・山﨑光
斎藤富貴子/マリア・ツァクライス(僚太/シュテフィーの母)・・・柿丸美智恵
エルマー・ツァクライス(マリアの義弟)・・・結城洋平
シュテファニー・ツァクライス(愛称シュテフィー。マリアの娘)・・・重松文
ワシリー・シュナイダー(ウィーン美術アカデミーの教授)・・・有馬自由
斎藤東吾/アロイス・ヒトラー(僚太/アドルフの父)・・・金子清文
鷲塚朱音(美大・油絵学科の教授)・・・異儀田夏葉
藍島稔梨(美大のOG。モダンアーティスト)・・・砂田桃子


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