どうか綺麗なままでいさせて

 私が汚れているということにはもうとっくに気がついていて、あなたがもう汚れてしまったかもしれないことにも薄々気がついている。汚れるということが何なのかなんて言葉では説明できないけれど、感覚で、汚れてしまったなと思う。そんなことを考えていることが綺麗ではないなとも思う。美醜とは少し別で、だけど隣合わせの綺麗と汚いはどちらも抽象的なのに強い言葉で、幼き日のあなたの視線のようだ。

 汚れてしまいたくはない。私がそう願ったのは、ただただあなたのためだった。なんて、こんな嘘をつくなんて馬鹿な女。私が汚れたくなかったのは、あなたに汚いと思われるのが怖かったからだ。私が、そう思われることに堪えられないからだ。それなのにあなたのせいにして、挙句、あなただって汚れてしまったなんて思っている。死が汚いだけの不吉なものなら、私はもう今すぐにでも死ぬことができたのかもしれない。

 どうか綺麗なままでいさせて。あなたのなかの私だけは。祈るのはそんな身のないことばかりで、手を組んで目を瞑るだけの無力で、自分に酔っ払ってみても泣くことなんてできないから、私は仕方なく、意味もなく笑った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?