味気ない昔話

 月の明るさもなくなって、花の香りもしなくなった今日この頃に、あなたの声を思い出しました。それは切なくて痛くて、愛おしくて儚かった。いつか世界に愛された名曲のボーカリストの声と、あなたの声はよく似ていた。そんなところも嫌いだった。

 あなたを愛したいとか、果てには愛しているとか。口でばかり言って。口でばかりいって。本当を信じていなかった。だから報われるはずもなかった。酷く滑稽なストーリーをこの紙一枚に描いて、それを笑う悪魔の手に全て奪われたかった。それくらいの惨めだけを夢にみていた。

 あなたを愛したかったのは、あなたを愛したからではない。あなたが私に好きだと言ったのは、私を愛したからではない。だからあなたには消えてほしかった。そして私も消えてしまいたかった。

 言葉では説明できない思いを情と呼んで、都合よく呼んで、それでボロボロになれていたら、今頃傷付いた私でいられたのに。あなたにだって愛されたかもしれないのに。

 何言ってんだ、この女。支離滅裂で気味が悪いな。どうせあなたがそう思ったって、日々はこんな戯言よりももっと歪で滑稽なもの。無様で無意味で価値のないもの。勝ちだってどこにもない。

 だから夢をみるの。だから夢をみたの。痛みに依存して、愛を待って、労働を惜しんで、時間を嘆いたの。全てを知って全てをこの手で諦めたかったの。

 あなたの酷く大きな手が、私の体を撫でたときに、私は灰になります。だけどあなたには一応、幸福のままでいてほしいから。あなたなんて大嫌いだから、もう二度と会わなくて済むように。祈りながら手首を切ったって、滲むのはただ何の変哲もない血液だけなのです。もう、私は苦しくっていけない。バイバイもさようならも言えなくて、またいつか、さえも癒えないのです。

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