相変わらず君を探してる

 生涯で自分より愛おしい人なんてあの芸能人くらいだし。もうそうなってしまった瞬間から、彼は宗教なのかもしれないとも思ってる。社畜時代好きだった先輩の命も、契約社員時代に好意を抱いていたおじさんの命も、自分より大事だと思えないもの。ただ、あの人たちの命のほうが尊いのかもしれないとは思うわ。でも選ぶなら自分、そんなもんでしょう?

 この前話した短編小説に出てきた、自分しか愛せない故似た趣味の同性と付き合っていた彼女、私あんなに美しくなんていられないけど気持ちだけは分かる気がするわ。なんなら私は彼女以上に、潔癖なのかもしれないけれど。彼女みたいに美しくなれないの、どうしてかしらね。顔だなんて無茶言わないでよ。相手は小説の登場人物よ。形がないの、まぁだからこそ汚れなくて済むとも言えるのだけど。

 経歴とか、誰が好きだとか、読んだ本の内容とか。もしかして、お前自身の話でもしているのか、と読み手の君は考えてくれたかもしれないわね。でもね、これが私のことだなんて、あまりにも恥知らずで、認めるわけにはいかないの。タグ付けするのは私自身、だから。だから、幾らでも誤魔化せるのよ。

 自分の気持ちに嘘は付けないだとか、あれだって嘘だよ。脳はよく自分自身を騙すし、私たちはそれに気付けない。それに、他人にだって脳は騙されるからね。まぁ気持ちを担っているのも脳だから、一括りにしてしまえば帰結してほらみろとなるのかもしれないけどね。

 私と君、出会ったって何の生産性もないわ、きっと。っていうか確実な生産性なんて、セックスして子どもを産んで育てることくらいしか。ああそれだって、真のところどうなんだろうね。結局誰のために、何のために、君は、私は、呼吸をしているのかしら。そんなの知らなくていい。自分のためだとか愛しい人のためだとか奢り腐っておけばいい。

 ねぇ、苦くて何もしたくなくて、でも何もしないことなんてどうやってもできない朝だから、君を知ってみたいんだけど。君を知ると私、私を忘れてしまうかもしれない。そんなことを考えると怖くて手が震えて、牛乳の紙パックも綺麗に開けられないの。震える手を握ってお手本を見せてくれた、君と目が合って何かが始まる。そんな少女漫画みたいな、日々と君があれば生きるのも楽しいのかしら。妄想は寂しくて堪らないけど、それ以上に豊満で煌めかしい。ああ、今日もいつもどおり、君さえいればそれだけでよかった。

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