イロイロ

 黄緑色の液体がこちらを見つめて頷いていた。私は恥ずかしくなって目を瞑ったけど、何故だか景色は変わらないままだった。仕方がないからその黄緑色に手を伸ばした。だけど、決して触れ合うことはできなかった。混ざり合えないからどうしても欲しいと思う。いつかの私と彼の関係みたいで、胸のずっと奥がきゅっと締まった。薄紫色の物体は私を嘲笑っていた。どうして?と言うと答えないのに悪意の目を向けてくるその感じ、懐かしいなって思ったのはあの頃の彼女みたいだったからね。分かり合えなくて笑い合えなかったけど、実はそんなに嫌ってはいなかったのよ、私は。
 ぐにゃりと曲がった黄緑と薄紫は、次第に引かれ合っていく。その途中で、黄緑がまた不意に私のほうを見て、いつかの彼女とそっくりに笑った。私は悔しくて恥ずかしかったけど、心のどこかでは勝ったとも思った。辛くて悲しいのは、生きているからだと信じていて、それなのにやりきれないとも思っている。もうずっと前からもうずっと、やりきれないなと思っている。昨日の寒さも喉元を過ぎてもうくだらなくなったみたいに、興味すらなくなるのだと、そんなことばかり考える。今だって会いたくていつだって好きなのに、嫌いにすらなれない未来を夢に見ては、少し誇らしく思うの。
    薄紫に近づくフリをしてぺちゃりと跳ねた液体は、真っ直ぐに私に飛んできたのに、その色にはちっとも味も感触もなかったから、感情がやけに淡白で優しいだけだった彼に本当にそっくりだなと思って、つまりは私にも似ているから気になるんだねって笑った。弔ってあげたいという感情と、いっそ孤独に死んでしまえという激情の矛盾は、彼の肌まではきっと届きやしないでしょう。だから、昨日の寒さを思い出したの。冷え性の彼女や冷酷な私にとっては、まだまだ寒いままの今を、愛して終わらせてあげるために。私は自分だけに尊大な嘘をついた。いつの日にか本当も嘘も分からなくなって混ざり合えば、きっと綺麗な色に染まるから。そう唱えて、黄緑と薄紫に笑って、今でも好きだけどねと呟いて、窓を閉めて、水洗トイレで御用を足したら、私からは何かがすっと抜け落ちて、憑き物がとれたみたいに体がうんと軽くなって、鼻歌ももう必要なくなった。どうやら全ては、水に還るみたいよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?