雨の前

 あなたを愛していた。だからずっと、愛が義務にならないことを祈っていた。だけど声に出さないとあなたは不安がるから、仕方がなく、好きだよと言った。周りの人に、あの人が好きなんだとも言った。その時から徐々に、私の好きは当然になった。私はあなたを好きでなければならなくなった。とてもとっても、苦しいと思った。あなたを好きじゃなくなったら、私はあなたを嫌いにならなければいけないみたいで、すごく悲しいと思った。

 思い通りにならない駆け引きも好きだった。新鮮なうちは、何よりのご馳走だった。知らない一面を垣間見ただけで温かかった。だけど、このままでは駄目だと気がついてしまった。愛し続けていても幸せにはなれないと、きっぱり気がついてしまった。

 どうしてももう愛せなくなっても、まるで嫌いにはなりたくないの。あなたを愛した私のことを、否定したくもされたくもないから。好きだったということだけ告げて、全てに片をつけたかった。それなのに泣いて縋るあなたは私のことなんて、やっぱり考えてはいないから、清々しくて馬鹿馬鹿しくて、なんだかすっと大嫌いになった。

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