遊覧

 梅に桜に紅葉、いろいろな花を共に見て、季節を巡った。 四季には色がついていて、生活は彩られていくこと。そんな当たり前を知った。そこにはたくさんの生き物もいて、私たちは顔を見合わせて笑ったりもした。

 歌にした桜も、挿した菊も、素朴で丁寧な生活には美しく息づく。名前を忘れてしまったあれも、あなたに教えてもらったそれも、すべてが私たちのためにあるようで、嬉しくて堪らなかった。

 公園に出かけようといったあなたの後ろを歩く私。この季節に見られる草花はなにかしら。そんなことを考えるだけで楽しい。そういえば夢に出てきたあの人は誰だったかしら。日が昇りきってもう顔も曖昧になってしまった、誰かのことを少し懐かしく思う。ぼーっと歩いていると、目的地はもうすぐそこ。あなたは池に目を落として、2匹の鯉を見つめている。背中を追うように私も、鯉と鯉を覗き見る。鯉と恋が同じ音だなんて少し不思議だな。そんなことを思いながら、愛したあなたの顔を覗き込む。でもそこには何も見えなくて、掴もうとした肩ももうそこにはなかった。ああそれでもまたいつか、あなたに会えることでしょう。今日また会えたみたいに、きっと。

 手を伸ばして返した先に見えたのは、犬の背中を追いかけていたあの子。そういえば二つ上の兄も、いつも犬を追いかけていたんだっけ。数多を思い出して、札に呟く。
「本当はお兄ちゃん、犬アレルギーなんだけどね。」

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