夏事情

 君は、夏が嫌いだと僕に言った。冬が嫌いだと言っていた君が、夏も嫌いだと言うのはなんだかワガママみたいに思えてしまった。だから僕は君に、夏が嫌いな理由を聞いた。君は、僕から目を逸らしてから、だって、夏が私を見放したから。と言った。酷く冷たい目をしていた。僕の目頭は熱くなった。夏は、誰に対しても平等だよ。僕がそう言うと、君は口だけで笑った。ヒロくんにはそう見えているのね。そう呟いて、よかった。と目を伏せた。

 2人分のアイスティーを淹れてから、僕は君の目を見て、ねぇ、夏が君に何をしたんだい?と聞いた。君はやっぱり僕から目を逸らして、小さな声で、ううん、何もしてくれなかったの。と答えた。そしてすぐに、アイスティーで喉を潤した。ああ、僕が君を、甘やかし過ぎてしまったのかな。そう思って君の頬に手を伸ばすと、君はびくっと震えて固くなってしまった。怯えた小動物みたいに。ごめんね、と言うと、いいの。と、君は困った顔で笑う。だから今日も、僕は君に触れない。だから今日も、僕は君に飽きないんだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?