架空請求

 架空の100万円が振り込まれた。さて、このお金で何をしよう。折角の牡丹餅だ。やったことのないことがやりたい。そうだ、架空の結婚をしよう。式を挙げなければ、新婚旅行くらいには行けるだろう。そう思い立ち、すぐに架空の婚姻届にサインをして判子を押した。架空の婚約者と役所に行き、架空の手続きを済ませて、架空の微笑み合いをした。架空の婚姻届は架空だから、保証人も要らなくて楽だ。そうそう、今みたいに、架空の世界では私が基準を作ることができるらしい。

 思えば、ここまで来るのにも結構な時間を要した。架空のお友だちから始まり、架空の恋人。ゼクシィを机に置いておくなど、架空の圧力をかけたりもした。架空の彼はいざというときは大胆で、とても堂々と架空のプロポーズをしてくれた。私は泣いて喜んで、こちらこそよろしくお願いします。と言ってみたい。数少ない友人にも自慢して回りたいし、架空の彼の実家へ挨拶に行くときに緊張したりもしてみたい。

 架空の時間はあっという間に過ぎていく。架空の新婚旅行の行き先を考えていたつもりがいつの間にか、私のお腹には架空の子どもがいる。2度目の産婦人科で、双子ちゃんですよ。と言われて、架空の旦那と2人で驚いたり喜んだりしたい。

 さて、私は今、架空のマタニティブルーに陥っている。でも、架空の双子を産んだら、ママになるのだから、私がしっかりしなければいけない。架空の旦那と2人で支え合い、架空のこの子たちを立派な大人に育てなければいけないの。たくさん愛を注いで、色んな景色を見せてあげたい。私が架空の両親にそうしてもらったように。

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