カマキリ

 鎌を買った。いつか何かを捌くための鎌だ。鎌を使う予定は今のところはない。だけどいつか必要になるかもしれないから、私は鎌を買った。鎌と聞くとなんだか物騒な感じがする。なんとなく凶器っぽいからだ。草や稲を刈るときにしか見たことも使ったこともない。私はこれまでに数えるほどしか鎌を使ったことがない。それなのに知ったような顔をしている。数回しか会っていない相手のことなんてすぐに忘れてしまえるのに、鎌のことを忘れたことはこれまでにない。鎌のことを考えることはあまりないけど、忘れたことはない。鎌という字だって、言われればすぐに書ける。書けなくても困らないけど、書ける。きっと義務教育のせいだ。鎌倉幕府のせいだ。

 鎌は私の心を軽くしてくれる。この鎌を使うことはどうせこの先もないけど、鎌は私に安心感を与えてくれる。私は鎌を愛していないけど、鎌は私を愛している。鎌はなぜだか私を慕っているけども、私は鎌を愛してはいない。

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