コッペパンのその先へ

 私はコッペパンを愛していた。愛していたから、コッペパンのその先へ行った。コッペパンのその先は、砂漠だった。その砂漠にはラクダが歩いている。ラクダの背中にはコブのようなものが付いている。コブのようなものは、コッペパン以外のものを食べると消えてなくなると聞いた。コッペパンを食べるとなくならないのか、どうなるのかは、まだ誰も知らない。この砂漠で起こる砂嵐は、ほんのりと甘い香りがする。日々は、鼻をツンと刺激する独特な匂いだ。ラクダは、意味もなく歩いている。例えラクダにとって意味があったとしても、私にとっては意味のないまま、ラクダは、コッペパンのその先を歩いている。

そのラクダの後ろを歩いてみた。ラクダは、想像よりも歩くのが速かった。ラクダは、疲れた頃に水を飲んだ。足で砂漠をちょいと掻くと、不思議とそこに水が湧いて出るらしかった。私も真似をしてみたけれど、あまり上手にできなかった。ラクダのコブのようなものから、ほんのりと甘い香りがした。もしかしたら、あのコブのようなものは、コッペパンなのかもしれない。コッペパンなの?そう聞いても、勿論返事はない。コッペパンからもラクダからも返事はない。

そこに一匹の蝶が舞った。ひらひらと踊るように舞った。ラクダのコブのようなものを、不思議がりながら舞った。蝶は、自らの美しさを魅せつけるように舞う。いつだって蝶はそうだ。どんな世界の蝶だってそうだ。コッペパンの世界の蝶は、私の知っている蝶とあんまりにも同じだったから、私はなんだか力が抜けた。

 頑張って早歩きをして背伸びをして、ラクダのコブのようなものを、えいっ!と触ると、ざらざらとしていて少しだけ怖くなった。

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