取捨連帯

「ねぇ、仕事と家族、どっちが大事なの?」

この時代にそんな台詞を書いてしまう脚本家がいることと、台詞を与えられたのが男性であるということへの生理的な不快感が入り混じる。

「仕事と私、どっちが大事なの?」

声に出してみる。冷えた指先で首筋をなぞったときみたいな、もどかしい気持ちになる。問いかける相手がいないことを私は嘆くつもりもない。

「そんなこと、聞かないとわからないの?」

女々しい男が増えた時代にも、女というものは決まって面倒くさい。そう思うのは、私が女という性を持て余しているせいだろうか。それともただの事実だろうか。

「わからないよ。俺は君みたいに賢くないから」

何を見せられているのだろう。チープすぎる恐怖映像を見たときのような居心地の悪さで反射的に電源を切った。

「君の方が大事に決まってるじゃないか」

そう言ってくれれば満足なのにな。私のひとりごとは白い壁に吸い込まれた。

「ねぇ、好きよ」

そう言って壁にキスをする。ざらっとした表面に舌を立てたついでにぴちゃぴちゃと音を立てたけれど卑猥な気分にもならなかったから、諦めてシャワーを浴びようと服を脱いだら、在庫処分セールかのように股からはドロっとしたあのレバーみたいなやつが伝う。中指と親指でそれを挟み取って口に運ぶとちゃんと吐き気がして嫌になった。


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