フレンチな彼

 「オイルサーディンのカナッペでございます。」
運ばれてきた料理を、彼は不思議そうに眺めている。
「ほら、オードブル、来たわよ。」
そう言うと、彼は真剣に私を見て言った。
「なんだか、君たちの言葉は、いつか青森で聞いた女子高生の会話みたいだ。」
彼の言わんとしていることを、少し恥ずかしいと思いたかったのに、あまりにも真剣な顔で言うものだからぷっと吹き出してしまって、私はそのことが少し恥ずかしい。

「ねぇ、あなた、私を幸せにする気あるの?」
そう聞くと、彼はにっこりと笑う。
「じゃあ君は、今まだ、幸せじゃないって言うのかい?」
そう言って彼は、ウエイターに手で合図をした。そしてオードブルを齧ったばかりの口で言う。
「オイルサーディンのカナッペ、おいしいですね。」
ウエイターはにっこりと笑って去って行った。

「あなたこういうお店、不慣れなんでしょう?」
聞くと彼は、ポリポリと頬を掻いて言う。
「いや任せてよ。今日の主催は僕だから。」
「じゃあ私はデザートかしら?」と聞くと、
「そうかもしれないけど君はヨーグルトだ。」と言った。
「菌をもって菌を制す?」と返すとただ、
「君は白い。」と答えた。

彼はまだ、私がヨーグルトに蜂蜜を垂らすことを知らない。いつか知られてしまっても、食パンにジャムを塗ってくれるのだろうか。

「ポタージュスープでございます。」
運ばれてきたスープは、毎日の食パンによく合いそうな味がした。

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