タイムカプセル

「宝物をね、この中に入れるの。それで、10年後の今日に2人で一緒に開けましょう。そうしたら、また会えるわ。どうかな?」

そう言って、この前当たったと自慢していたお菓子の缶を僕に差し出した。10年前の君は、もうすぐ会えなくなるねと話しているときもずっと笑顔で、きっとまた会おうと言ってくれた。僕はこの10年間、あの日の約束を忘れたことは一度だってなかった。

 恋人、家族、仕事、好きな・・・。趣味、仕事、何もない日⋯⋯

 4月1日、遂に君との約束の日。約束の時間。僕はいつも通り、5分前に待ち合わせ場所に着いた。いつも約束より5分遅れてくる君を待つ。この10分間が懐かしくて心地よい。あっという間に5分が経った。待ち侘びていた10年間に比べて、5分は可笑しいくらい短い。あと5分。君を待つ。いつもひとりで聞いていた夕刻のチャイム。振り返ってもやっぱり君はいない。

 それから、暮れていく町を眺めて、1時間が経った。約束の時が過ぎても来なかった君の代わりに土を掘る。目印は、空の明かりと校舎の時計。西へ歩いて手を汚す。

 君の自慢のあの缶は思っていたより浅く、そこに埋まっていた。両手で拭って、それを開ける。封じ込めたのは、君への思いと、あとなんだっただろう。中には、枯れた一輪の花が入っていた。僕の入れた何かはもうそこにはなくて、代わりに、大人が書いた手紙が入っている。

私も好きだった。ずっと愛してる。ありがとう、さよなら。

僕は泣いた。声にならない叫び声をあげた。誰かが背中をさすってくれた、そんな気がした。月明かりは僕の濡れた頬を抓る。生を実感して、一度笑う。

親愛なる君。僕が20歳になった今日、君は幾年目の今日を生きていますか。今度会ったら聞かせてください。幸せを切に願っています。           悟

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