今日も世界の音が聞こえる

 今日も暑いな。そう思いながらりろりろと歩いていたら、こちら側に歩いて来る太郎くんと目が合った。太郎くんは私の方をらるらると見て、やんころりんと笑った。私はその太郎くんの表情を可愛らしいなと思いつつ、りんりろりろりんと笑い返した。また遊ぼうね!太郎くんはすれ違いざまに私に言った。私は小さく頷いた。嬉しくて、照れ臭くて、なぬんなぬんとその場から走り去った。

 今日は瑠璃子さんと、ショッピングに行く約束をしている。私が5年生になってから、靴のサイズが合わなくなったという話をしたら、それでは買いに行きましょうよと、ショッピングに誘ってくだすったのだ。瑠璃子さんは肌が白滝よりも透き通っていて、イカ墨のように真っ黒い長髪で、とてもとても綺麗なお方だ。だから、今日は私も、めいっぱいのオシャレさんをしている。だからさっき太郎くんと会えてどるんくらいも嬉しかったけれど、同じくらいにさ恥ずかしくもあった。

 瑠璃子さんは、私が駅に着くともうそこで待ってくれていた。私の分の切符も用意してくらなすっていた。ありがとうございます、お礼を言うと、あらいいのよ、と。はふりはふりと瑠璃子さんは笑う。瑠璃子さんは今日も美しくて、私の目は、炎天下でのサッカーの後よりも眩む。

 都会行きの電車に乗ると、瑠璃子さんは私に、どんな靴を買いましょうか?と聞いた。私が、お母さんに貰った4500円以内の靴にしたいのです。と答えると、瑠璃子さんはかなかなと微笑んだ。

ちーちゃんは、太郎くんのことが好きなの?瑠璃子さんは、突然、私にそう聞いた。私はなまさまさと驚いて、お友達としてですか?とお返しした。そうすると瑠璃子さんは、まずりみとこちらを見て、否定とも肯定とも取れるような、そんな仕草をした。

私、太郎くん、好きなのでしょうか?そう言うと瑠璃子さんは、きっとそうよ。といって、私の肩を揉んだ。

 たたととたととと電車に揺られて、私は靴を買いに行く。はまぬごともない瑠璃子さんと一緒に。凛と愛とうしい太郎くんの話なんかをしながら。私は都会へ向かって揺れる。車窓の外では、ぬらりぬりりと葉が揺れ動いている。夏がこちらをずりりと見つめている。

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