ふたりひとり

 あの子と彼を巡り合わせたのは確かに私だった。あの子は初めて会った日から彼を気にかけていた。彼はどんな人?と、会う度に私に聞いた。あの子のことも彼のことも愛している私にとってそれは、とても嬉しいことだった。そして充分同じくらいには寂しくて悲しいことだった。彼があの子をご飯に誘うようになって、それから、私の知らないところでも会うようになって、私の知らない顔をお互い知るようになった。そうなることも想定して繋ぎ合わせたはずだから、ちゃんと祝福してあげた。

 あの子と彼、遂に結婚を誓い合ったんだって。永遠の愛だとか言っちゃって。ふたりのこと、誰よりも大好き。ふたりとも、誰よりも愛してる。私は彼よりも深くあの子のことを愛している。あの子よりもずっとずっと、彼のことを愛している。だからね、もし今死んだらふたりの子どもに生まれ変われるとしたら、私は迷わずにこの身を捧げるわ。だけどそんな保証どこにもないでしょう?それとももしも今あの子を殺したら彼が手に入るなら、あの子を何度だって刺し続ける。もし彼を損なうことであの子を得られるなら、迷いなく彼を奈落の底まで突き落とすわ。でも人生に正解はないから、そう上手くはいかないでしょう?身を引くなんて言ったって、そもそも押してもない訳だし。あなたたちにお腹と背中、双方から刺されたら本望だったんだけどね。私を殺して隅々まで食べて貰えたら、そんなに嬉しいことはなかったんだけどね。なんだかそれも無理そうじゃない?だからせめてふたりが繋がった瞬間に、全部呑み込んでやりたかった。でもほら、私ってあまのじゃくだから。だから今日も、枕を濡らすことしかできないの。しわくちゃになったシーツには、顔も知らない誰かの体温が残っていて、この世の汚物すべてを、体内に取り込んでなくしてしまいたい、そんな気分になったわ。

 ああなんだか、少し疲れたみたい。おやすみ。20分後に起こしてね。

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