そうでもない男

 珍しい顔の男がこちらを見ていた。珍しい顔というのも今の時代禁句なのかもしれないが、とにかくそういう男が私を見て、そして言った。ワタシはクマに勝ったことがある。どこか自慢げだが私は不安だ。この珍しい顔をした男が本当にクマに勝ったのか、そもそも闘ったのか、のその前に、急に話しかけてきたことが少し怖かった。クマに勝ったことがあるのかもしれないのだから、尚更だ。クマですか?そう聞くと、クマです。と、ただ平然と言う。強かったですか?と聞いてみたら、それがそうでもなくて。と言って、なぜか照れ臭そうに笑った。お友だちになりますか?私はなぜだかそう聞いた。いいえ、大丈夫です。と笑って男はどこかへ消えた。ああ、とても、クマみたいな顔をした男だったな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?