夜の事

 あれは幻のような夜だった。いつかはこの上なく愛されるのだと、あの頃は信じていた。何も信じたくなくなったのはいつからだろう。お土産に貰ったゼリー状のお菓子の緑色がバナナ味だった、あの日くらいからだろうか。あの夜のことを今でも時々思い出すけれど、どうもしようがない。私が触っていたあの人は、私を触ったあの人は、一体どこの誰だったのだろう。今でもちゃんと生きているだろうか。

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