UNISON SQUARE GARDEN 15th Anniversary Thank you, ROCK BAND! (2/3)

 2019年7月24日に初のトリビュート・アルバムをリリースしたUNISON SQUARE GARDEN。このトリビュート・アルバムは今までに見たことのない豪華な内容で、私はそれを開けたときに、宝箱みたいだなと思ったのをよく覚えている。それは初回盤・通常盤ともに付属する聴き比べ音源を取ってもそうである。
彼らはCDを手に取りたくなるような工夫をするのが上手い。収録内容はネット等で予告されているのに、いざ手に取るといつも高揚感を得られる。このトリビュート・アルバムは参加アーティストも最高だ。先輩・後輩・同世代の参加アーティスト。そのすべてが全力でユニゾンの楽曲を潰しにかかっている。そう感じさせるほどの表現でユニゾンの曲をカバーしている。そんなアルバムが完成してしまったのは、安易に言うと、「このバンドがみんなに愛されているから」であるが、根本的な話をするならば、「最高のアーティストたちがユニゾンというロックバンドを認めているから」である。

 思えばこの本の企画の発端は、実現不可能そうなトリビュートライブを実現させて唯一無二の2日間をモノにしたことを、田淵が人々に自慢したいがためだった。(彼はお裾分けとして、どうにかこの2日間を形に残すと宣言した。様々な事情で映像や音源に残せないために、本にするという発想に至った。本当にそんなものを、しかもきっかり今年のうちに出版した。そんな大いなる有言実行に対して語弊のある発言をしたが、この2日間は真に自慢に値する特別な夜となった。)

 私が今年の半ばに認識した、好きな文章を書くライターが、この企画に加担すると知ってから期待をしていた。しかしそれにしても、そのお陰もありこんなに面白くて充実した本に仕上がるなんて、ロックバンドは侮れない。

 来たる8月28日、最初に登場したのはパスピエ(大胡田、成田、三澤)。とはいってもただメンバーがステージに現れたわけではない。key.成田の独奏からライブを始めるというこの日ならではの演出は田淵の提案から。その提案に過剰に便乗した成田は、ソロからユニゾンのお馴染みのSE、“絵の具”のメロディーへ。オーディエンスは、今日という特別な一夜に、既に心を躍らせただろう。
パスピエの奏でる音はいつも光を帯びている。それは、メンバーの音楽的偏差値の高さによる。とか、そういう言葉だけでは片付けられない何かを含んでいる。楽器・楽曲・メンバー、それぞれのもつポップな要素が一か所に集結して、聴いた瞬間に耳元で弾ける。そう、パスピエの曲には本能的に引き寄せられる、そんな力がある。その力を加減せずぶつけた”場違いハミングバード”。この日ユニゾンのメンバーと共に披露したこの曲も、成田・三澤が弾き、大胡田が歌にした時点でもう、パスピエ一色となっていた。だが、なんといっても、この日は15年に一度、いや、もう二度とないとも言える特別な日。ユニゾンの楽曲を、カバーしたパスピエが彩った。その歌をさらにユニゾンが彩るという、文章にすると迷宮入りしてしまいそうな不可解な状況も、なんとなく想像できてしまうから悔しい。
この日のセッションは、ユニゾンの楽曲である、”harmonized finale”から始まり、パスピエの楽曲、”S.S”も披露した。”S.S”は、パスピエらしいポップな楽曲だ。しかし、私がこの曲を初めてライブで聴いたときに感動したのは、そのポップさの齎すロックンロールだった。ロックという言葉は酷く曖昧で説明は難しいし、そういうところがいいいらしい。でも確かに誰かの歌や演奏を聴いてそれを感じることはある。この曲が誰かを、そんな言い表せないような感情にしてしまうのは、この曲を演奏しているときのバンドと観客の、つまりその空間の温度だった。そんな温度感のこの楽曲を、超絶ライブバンドであるユニゾンと、美しくてロックなライブで魅了するパスピエが、同じステージ上で弾き交わす夜がここにあった。これがもし運命の悪戯なのだとしたら、名プロデューサーに、乾杯。と、ここで本の話に戻るが、先に述べたように、この記事を担当したライターの書く文章が好みだ。情緒的な表現もあるが、ちゃんとプロとして記事を書き上げているから、纏まりがあり面白い。(そんなこと書き手としては当たり前なのかもしれないけれど、読みづらい文章はこの世の中に溢れているんだよ。)そんなライターの書いた文章が、このレポートの最後の一文に限り少し渋滞している。しかしそれこそが、このライブの混沌としたさまを妙に映し出している。「これはヤバい日になりそうだ……!」で締め括る文章を音楽ライターに書かせてしまうそんな夜が、面白くない訳がない。

 続いてのゲストは、a flood of circle から佐々木亮介。彼は一体、どんな人間なのだろう。彼の歌声はとても特徴的だ。その歌声は、快とか不快とかそういう議論の前に、どの方角から聴こえてきたって彼なのだ。ロックンロールを信じてやまない。そんな、ユニゾンとの共通点をもつ彼が、トリビュート・アルバムでカバーしたのは、「完全無欠のロックンロール」を歌った、”フルカラープログラム”だった。この楽曲を(ユニゾンが)セルフオマージュしたのが、”プログラムcontinued”、そしてそのセルフオマージュをセルフオマージュしたのが、”プログラムcontinued (15th style)”なのだが、この3曲を並べると、ユニゾンというバンドの成長を感じて嬉しくなる。なんて、そんな惚気のためにここまで脱線した訳ではない。この3曲における「マジでグッとくるポイント」は、「UNISON SQUARE GARDENというバンドの変わらない核」なのだ。全力で最高のライブをやるだけ。そんな彼らの活動の核の所以は、ロックンロールを信じたいという本能だった。そんな曲を、アマチュア時代、出会った頃には既にライブで演奏していたユニゾンにだからこそ、「ぶっ潰したい相手」という愛のある暴言をその夜、佐々木は吐き出したのだろう。完全無欠のロックンロール、その途中式を書き続けている彼と彼らのコラボレーションは、いつか証明してみせるその答の、大事なピースに成り得るだろう。

 そして3組目のゲストは、THE BACK HORN(山田将司、菅波栄純)。彼らがトリビュート・アルバムでカバーした楽曲は、”シャンデリア・ワルツ”だ。この曲はユニゾンというバンドを線で見たときに欠かすことのできない大事な曲。そんな曲を、純粋にファンとして好きだったTHE BACK HORNにカバーされる日が来るなんて。そして同じステージに立って、共に演奏する日が来るなんて。ただ最高の曲を作って、ただ最高のライブをする。ただそれだけのことを本気で5000日以上続けてきた。そんなユニゾンへの、ユニゾン自身からのご褒美、THE BACK HORNとの一夜限りのステージ。それを実現させたのは、憧れのロックスターを納得させたユニゾンのライブであり、ボーカル斎藤が歌に向き合ってきた成果だった。何百回の「おめでとう」よりも確かな祝福をもらったユニゾンのメンバーの目に、あの夜のステージはどう映ったのだろう。そしてかつてはただのファンだった少年たちと過ごした不思議な夜に、THE BACK HORNは何か夢を見たのだろうか。

 4組目はthe pillows(山中)。なんでも、田淵はピロウズに魂レベルで影響を受けているのだとか。今回のトリビュート・アルバムを企画するにあたっても、ピロウズのトリビュート・アルバムのような規格外のものを。という思いがあったそう。そんななか、ピロウズがカバーした楽曲は、”シューゲイザースピーカー”。この曲をアルバムで聴いたときに、山中は、いつかカバーしたい。と思ったらしい。山中の芯のあるボーカルで歌われる、「どんなヒットソングでも 救えない命があること いい加減気づいてよ ねえ だから 音楽は今日も 息をするのだろう」というフレーズに、身震いせずにはいられない。

 続いてのゲストは、東京スカパラダイスオーケストラ。この2日間の集合写真を見比べたときに、圧倒的に人口密度が高いのは1日目。その原因となっているのがスカパラだ。スカパラの楽曲に斎藤がゲストボーカルで参加していたことで、セッションライブを行ってはいたものの、そのときは斎藤のみの出演だった。だから今回どんなステージになるのか想像がつかなかったが、さすがはあのエンターテイメント集団、東京スカパラダイスオーケストラ。オーディエンスの期待なんて軽々と飛び越える。スカパラのドラマー茂木に、憧れや絶望や希望を抱いている鈴木。そんな彼のドラムソロからセッションは始まった。そこに加わったのは噂のドラマー茂木。鈴木と茂木のドラムでの掛け合い。それは茂木を敬愛する鈴木にとっては本望的な時間であり、確かな希望だっただろう。そこから12名で繰り広げられたセッションは、結成15周年のユニゾンと、デビュー30周年を迎えたスカパラ2バンド共作の、傑作ライブだった。普段から様々なゲストボーカリストと組むスカパラの好奇心や探求心、煽っても野暮ったくならない人柄とテクニック。そして、後輩であれ良いと思えば良いと言う誠実さとやさしさ。そんな彼らに巻き込まれたユニゾンとオーディエンス。感情の溢れる夜は楽しい。

 そして最後のゲストは、LiSA。彼女がユニゾンの楽曲のなかで特にお気に入りなのが、”オトノバ中間試験”だ。だが、トリビュート・アルバムでカバーする楽曲を選ぶときに、自分の役割として、”オリオンをなぞる”を選んだ。1つ目の記事でも書いたように、彼女とユニゾンの活動方針はいわば真逆に近い。しかし、自分たちの責任を果たす姿勢は両者に共通している。LiSAが、一緒にライブがしたい!と言っても、ユニゾン側は、今じゃない。と言い、なかなか2組の共演は実現しなかった。それは、ユニゾンにロックバンドとしての意地や、果たすべき責任があるからだった。馴れ合いを嫌う彼らは、特に所以深い誰かと共演する際には、タイミングを凄く気にしている。それは、共演できるいつかを探しているとも言えるが、どこかで出会える日が来るといいな。という希望的観測のようでもある。つまり、交わるべきときが訪れない限り、それは実現しないのだ。それぞれが信じて突き進んだ先にあるタイミング。それがようやく訪れて、逃さずに選び取ったからこそ、やっと実現したこの共演。だからこそ、心の底からこの日を祝福して楽しむことができたのだった。自分に誠実過ぎるユニゾンと、他人に誠実過ぎるLiSA。2組が共に立ったステージは、ギラギラと強く輝いて、オーディエンスの目を眩ませ、耳を疑わせ、生きているということを否応なしに実感させたことだろう。

(さて、ここまででトリビュートライブ1日目(まで)の話をしてきた。2日目は幸運にもライブをみられたことを加味すると、どうもこの記事には収まりそうもない。仕方がないから次の記事へ続く。今年中には書き終えたいね。では、また。)

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