隣の紅い空

 あちらの空はとても紅い色をしている。あちらの空の下には、あちらの世界の私がいる。あちらの世界の君もいると聞いた。あちらの世界の君は、脚が長くて、女の子にモテモテらしい。こっちの世界の君は、あちらの世界の君に憧れている。私はこっちの世界の君のことが好きだ。あちらの世界の君には会ったことがないけど、私はこっちの世界の君が一番好きだ。

 あちらの世界の私は紫色の髪をしていて、爪は長くて水色だ。あちらの世界の私は、私にとてもよく似ているけど、私にとっては私ではない。あちらの世界の君だって、君によく似ているけど君ではない。君によく似た君ではない君は、とても足が速い。あちらの世界の私と同じくらいに速い。こっちの世界の君は、妙に足が遅い。ちょうど私と同じくらい遅い。そういうところが好きなのだと言うと、君は照れ臭そうに笑う。

 あちらの世界の君に、本当は少し会ってみたいと思う。あちらの世界の君には、あちらの世界の私と仲良くしていてほしい。それを伝えるために、会ってみたいと思う。だけど、紅い空は怖い。なんとなく怖い。脚の長い君を私は知らないし、足の速い君を私は知らない。こっちの世界の空が蒼いことを、あちらの世界の私達は知っているのだろうか。怖いと思っているのだろうか。

あちらの世界のお父さんはお母さんで、あちらの世界のお母さんはお父さんだと、昔学校で習ったけど、どういう意味なのかはあまりよくわからない。

こっちの世界に生きていてよかったと思うのは、こっちの世界の君と居られるからで、全てはこっちの世界に産まれてしまったエゴだけど、空が紫色に染まった夜だけは、あちらの世界の幸福を願ってみたりする。なんだか私はとても狡いけど、どうやらそれが生きるということらしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?