ウソツキ

 平気で嘘をつく人。そういうレッテルを貼られて、これまで生きてきた。だけど私だって別に全然、平気で嘘をついている訳じゃない。

本当が言えなくて、何度も嘘を重ねた。そうすると、今度は本当がなくなって、私全部が嘘になった。お風呂で洗い流す髪も、洗い流さないヘアトリートメントも嘘で、鏡に映る私の中にさえ、もう本当は何一つない。

嘘とは何か。それも分からなくなった。分からない何かを連ねて生活した。嘘も、本当も、私も、何もかも分からなくなってしまっても、私は生きたままだった。息をしていたから多分、私は生きたままだった。

本当のことを言ってよ!私の親友を名乗る女は、そう、泣きながら叫んでいる。ねぇ、みゆう、あなたなんでしょ?怒らないから、誤魔化さないで!そう言って泣くのを、何度も何度も繰り返している。

私は、彼女の涙が床を濡らす度に、とても羨ましいと思った。泣けることが、怒れることが、自分の言葉で喋れることが、どうしても、羨ましいと思った。今、彼女に、首を絞めて欲しいと思った。そうしたら、綺麗なものになって、ようやく私は本当になる。そんな気がした。

直に黙り、私に背を向けて去っていく彼女に、私は、ごめんねと呟いた。
この謝罪が嘘でも、彼女を羨んだ今日は、本当であって欲しい。心からそう思う。

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