仇地区

「ねぇねぇママ!」
「どうしたの?ゆうちゃん」
「あだちくって、しってる?」
「あら。懐かしい名前ね」
「ママ、しってるの?」
「そうね。昔ね、東京には足立区っていう場所があったんだけどね」
「うん」
「ふふっ。あのね、ママが滅ぼしたの」

ママとお母さんが出会ったのは、ゆうちゃんも住んでいる、この東京のね、足立区っていう場所だったわ。ママとお母さんは、最初はお友だちだったの。それでね。ママ、お母さんに好きって言われて、ママもお母さんのこと、好きだなぁって思ったから、一緒に住むことになったの。それで、一緒に暮らしてみて、凄く幸せだなぁって思って。だからね、足立区を滅ぼしたの。

「ねぇママ、ほろぼすってなに?」
「滅ぼす、って、、、なんだろうね」
「わからないの?」
「うん、そうかもしれない」
「ねぇ、ママはいまも、しあわせ?」
「うん。とっても幸せだよ。ゆうちゃんと、お母さんと、3人だから、ずっと幸せ」
「よかった!ゆうちゃんも、しあわせ~!」
「そっか。よかった。ね、ゆうちゃんは、好きな子、いるの?」
「ゆうちゃんはね、たかちゃんがすきだ」
「たかちゃんは、女の子?」
「うーん?かんがえたことなかった。でも、かわいくて、おままごとがすきだから、おんなのこかな?こんど、きいてみるね!」
「そっか。じゃあ、ゆうちゃんは、おとこのこ?おんなのこ?」
「おお!それもかんがえたことなかった!うーん。ゆうちゃんは、きょうりゅうすき!だし、かっこいいし、おとこのこトイレにはいるから、、、きょうは、おとこのこ!」
「そっか!じゃあ女の子だった日もあるの?」
「うーん?ない!けど、あしたキティちゃんすきになって、おんなのこになるかもしれないもん!」
「そうね。ねぇ、ゆうちゃんは、お父さんがいなくて、寂しい?」
「ううん、さみしくないよ。ママたちのすきなおとこのこは、ゆうちゃんだけがいいもん!ねぇ、ゆうちゃんとママは、けっこん、できる?」
「うーん、どうだろうね。でも、ママとゆうちゃんが結婚すると、お母さんが悲しくなっちゃうよ?」
「じゃあゆうちゃんは、ママとけっこん、できないねー。ママのことすきすきだけど、おかあさんのことも、すきすきだから!」
「そうだね。ゆうちゃん、ありがとね」
「ママ、いたいの?なかないで。どうしたの?あだちくのせい?」
「ううん。違うよ。ゆうちゃんのお陰の涙だよ」
「ママのことも、おかあさんのことも、ゆうちゃんがまもる!から、だいじょうぶだいじょうぶ!だからね」

鍵を開ける音が聞こえる。かつて共に足立区を滅ぼした彼女のただいまを、今日も聞けることが嬉しい。

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