おもいあい

 一緒に夏の思い出を作ろう?そう言ってあなたは、海にもプールにも向かわずに、スケッチブックを開いた。何気なく覗いてみると、夏の匂いがした。いつかどこかの海で嗅いだそれよりも少しだけ美しい、夏の匂いがした。私も負けじと、自分のノートを開いた。あなたとの思い出が沢山の、このノート。私があなたを書いたノート。開いて黙読していると、あなたが後ろから読み上げていく。耳の辺りが擽ったくて笑う。

あなたの描いた夏のなかに私はいる。ノートを開いた私。あなたが描いた私。まだあなたしか知らない真っ白な私は、バレないようにあなたを見つめている。バレないようにあなたを愛している。あなたの手の大きさを、とても誇らしいと思っている。

私のノートのなかのあなたは、いつも私の絵を描いている。あなたの絵のなかの私は、いつもあなたの物語を書いている。私はいつだってあなたに触れることができる。あなたもいつだって私に触ることができる。だけれど決して触れ合うことはない。そんなふたりの関係を、私は純愛と書いた。あなたはそれを、夏に描いた。だからもしかしたら次の季節になると、私は消えてしまうのかもしれない。天の川でまた逢えたらいいと願う。

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