7.昭和36年 国民皆年金の実現
ご訪問いただきありがとうございます。
社労士試験の学習をしているあなたは、「年金の2科目は、他と比較して格別に難しく、基礎からしっかり説明してくれるテキストがあれば・・」と感じたことはありませんか。
このnoteの目的は、社労士を目指している方が、年金2科目のテキストに書いてあることを理解できるようにすることです。
社労士試験最大のヤマ場であろう年金制度の基本となる考え方や、なぜそのよう仕組みなのかを主眼に解説します。
noteは全部で9つあります。
全部読んだあともう一度、受験テキストを読んでみてください。
難解だった年金がすっきり頭に入るようになります。
今回のノートは第7回目です。
日本の年金の仕組みは、20歳以上60歳未満のおよそ40年間保険料を支払い、65歳以降20年間ほど、お金を受け取る制度です。
その長い歳月の間に、時代も社会情勢も変化し、年金制度もそれに合わせて改正がなされます。
年金制度が変更になると、これまで長年に渡り保険料を納めてきた方々ほどつまり老人に近い年齢の人ほど、老後のライフプランが大きく翻弄されてしまいます。
それを避けるために、年金制度にはさまざまな救済措置が施されています。
年金は制度変更の歴史がわかると、受験テキストが簡単に読めるようになります。
(1)年配者ほど優遇?
受験テキストを見ると、年配者を優遇しているように見える制度がたくさんあります。
具体例をいくつがあげると
①老齢基礎年金が満額支給されるための保険料納付年数
昭和2年4月1日以前生まれ:25年
昭和16年4月2日以降生まれ:40年
②遺族基礎年金 期間短縮特例に該当する保険料納付年数
(=遺族厚生年金 長期要件に該当)
昭和2年4月1日以前生まれ:21年
昭和5年4月2日以降生まれ:25年
③老齢基礎年金 振替加算の支給
昭和41年4月1日以前生まれ:支給される
昭和41年4月2日以降生まれ:支給されない
④遺族厚生年金 経過的寡婦加算の支給
昭和31年4月1日以前生まれ:支給される
昭和31年4月2日以降生まれ:支給されない
⑤老齢厚生年金・遺族厚生年金(長期要件)の給付乗率
昭和21年4月1日以前生まれ:年長者ほど有利な読み替えあり
昭和21年4月2日以降生まれ:読み替えなし
⑥老齢厚生年金の支給開始年齢
昭和16年4月1日以前生まれ:60歳から
昭和36年4月2日以降生まれ:65歳から
少子高齢化により年金財政が苦しく、若い世代ほど将来の年金が厳しいことはご承知のとおりです。
しかし、上記①~⑥は全て少子高齢化が原因でしょうか?
純粋に少子高齢化を原因としているものは、⑥のみです。
①~⑤は、以下の過去2回の年金大改正に基づくものです。
1・昭和36年(1961年) 国民年金法施行
国民皆年金体制の確立(主婦除く)
2・昭和61年(1986年) 国民年金法・厚生年金保険法改正
2階建て年金の確立 主婦を含め真の国民改年体制の確立
上記①~⑤は、「過去2回の法律が制定された当時の年齢が高すぎて、その後いくら真面目に保険料を納付しても、年金をきちんともらえない」
そのような方々への救済制度です。
私の見るところ、受験テキストは、ここに対する説明が不足しているように思います。
これから3回にわたり、
「なぜ、年配者のほうが有利な制度に見えるのか」の解説をします。
この「なぜ」を押さえれば、年金の学習は難しいものではありません。
受験テキストの書かれていることが理解できるようになります。
(2)昭和36年 国民皆年金制へ(主婦のぞく)
昭和36年4月1日、現在の国民年金法のベースとなる旧国民年金法が施行されました。
対象は主に自営業者向けの年金制度です。
制度の骨子は、20歳以上60歳未満の間、国民年金保険料を納付し、25年以上の納付実績があれば、65歳から老齢年金を受給するというものです。
現在の制度ととてもよく似ています。
サラーマン向けの厚生年金保険については、これより以前の昭和29年に旧厚生年金保険法が施行されていました。
つまり、昭和36年旧国民年金法の施行により、サラーリーマン・自営業者ともに公的年金に加入することとなり、国民皆年金が実現しました。
これから、この法律改正をルーツにした、年長者優遇に見える(実際はそうではない)制度の説明をします。
(3)老齢基礎年金 加入可能年数
受験テキスト老齢基礎年金の基本年金額計算のページには、このような表が出てきます。
(老齢基礎年金 基本年金額の計算式)
780,800円×改定率×保険料納付済期間等(月数)/加入可能年数×(12か月)
老齢基礎年金は、20歳以上60歳未満の40年間(480か月)全ての期間保険料を納めると、満額支給されます。
未納期間や免除期間があると、その月数の割合により、年金額が減額されます。
この表は、その計算の分母となる加入可能年数を40年ではなく、生年月日に応じて、年長者ほど短くしていることを表しています。
昭和16年4月1日以前に生まれた人は、国民年金保険料を40年間納めなくても、老齢基礎年金が満額もらえます。
なぜそのような優遇をしているのでしょうか。
国民年金法(旧)が施行された昭和36年4月2日現在の年齢と関係があります。
見てのとおり、昭和16年4月1日以前に生まれ、法施行時すでに20歳を超えていた人は、その後60歳になるまでに、40年間の歳月は残されていません。
このような方々は、どのように頑張っても40年間保険料を納めることができません。
したがってこの制度は、年長者も法施行日以降、残された60歳までの全期間保険料を納付すれば、老齢基礎年金を支給しようという、やむを得ない救済処置です。
一見、年長者であればあるほど有利に見えますが、実際はそうとも言い切れない制度であることが理解できると思います。
(4)遺族基礎年金の期間短縮特例
この表の白い背景の部分は、遺族基礎年金の期間短縮特例(=遺族厚生年金の長期要件該当年数)について、国民年金保険料納付実績が何年必要かを、Aの数値で表しています。
黄色の背景部分は私が書き足しました。
遺族基礎年金・遺族厚生年金は、ともに支給の条件として、死亡日前日までの保険料納付要件が問われます。
保険料納付要件とは、保険料をきちんと納めていたかどうはを判断する基準のことです。
しかし、25年以上という長期間にわたり国民年金保険料を納付した人は、原則この保険料納付要件を問われません。
死亡の際、遺族の方々に遺族基礎年金・遺族厚生年金が支払われることが確定している人たちです。
この表は、ここの25年という年数について、昭和5年4月1日以前に生まれた方はもっと短い年数でも期間短縮特例・長期要件に該当されることを表しています。
なぜでしょうか。
理由は、先述の老齢基礎年金 加入可能年数の制度と同じです。
昭和36年4月2日国民年金法(旧)が制定された当時から60歳までの残り年数で、25年以上国民年金保険料を納付するには、あまりに厳しい年齢の人に対する救済措置です。
例えば、大正15年4月2日生まれの人は、法律制定当時35歳です。
60歳まで残り25年です。
残り25年間のうち、25年の国民年金保険料納付実績がないと、期間短縮特例・長期要件を認めないなのは、あまりに厳しい条件です。
そのため、このケースでは25年ではなく、21年と条件をやや緩和しています。
昭和5年4月1日以前に生まれ、これらの措置を受けている人の保険料納付年数の条件(A)を60歳までの残り年数(C)で割ると、85%前後です。
60歳までの残り年数の85%ほどは保険料を納付する必要があります。
一方、昭和16年4月2日以降生まれの方々のA÷Cは、63%です。
60歳までの残りの年数のうち63%の期間、保険料を納付すれば足りるのです。
これも、年長者を優遇しているとは言えない制度です。
以上が昭和36年4月2日国民皆保険制度確立と、その当時の年齢に応じた救済制度です。
制度の趣旨がお分かりいただけたと思います。
(5)サラリーマンの妻を残した国民皆保険
昭和36年の国民年金法施行により、国民皆保険が実現しました。
しかし、サラリーマンの妻だった専業主婦の方々は、依然強制加入ではありませんでした。
昭和61年年金制度の改正により、第3号被保険者制度が確立され、専業主婦も年金制度に強制的に加入することになりました。
この昭和61年の制度改革をルーツにする、主に専業主婦救済を目的とした各種制度については、次号にて説明します。
(6)最後にまとめ
1)年長者ほど優遇しているとは限らない。
年長者ほど年金額が多かったり、少ない保険保険料納付年数でもよい理由は、年金制度への強制加入した日付が原因です。
2)昭和36年4月1日旧国民年金法施行
国民皆保険が実現しましたが、施行当時の年齢と60歳までの残り年数が何年なのかを考えると、制度の主旨が見えてきます。
今回のnote
社労士試験 年金がわからない人へ 7
40年がかりの制度改革
7.昭和36年 国民皆年金の実現 は
これで終了です。
次回のnoteは
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