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9.平成 少子高齢化への対応

ご訪問いただきありがとうございます。

社労士試験の学習をしているあなたは、「年金の2科目は、他と比較して格別に難しく、基礎からしっかり説明してくれるテキストがあれば・・」と感じたことはありませんか。

このnoteの目的は、社労士を目指している方が、年金2科目のテキストに書いてあることを理解できるようにすることです。
社労士試験最大のヤマ場であろう年金制度の基本となる考え方や、なぜそのよう仕組みなのかを主眼に解説します。

noteは全部で9つあります。
全部読んだあともう一度、受験テキストを読んでみてください。
難解だった年金がすっきり頭に入るようになります。
今回のノートは第9回目です。

いよいよ最後のnoteとなりました。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。

最後のnoteのテーマは少子高齢化への対応です。

厚生年金保険の学習をすると、まず「老齢厚生年金は65歳から支給開始」と記載されています。
ところが、学習を進めると「特別支給の老齢厚生年金は60歳から支給開始」というページが登場します。
少子高齢化により、支給開始年齢を繰り下げているのは理解できるのですが、制度主旨が明確に理解できず、特に初めて学習する人は悩む箇所です。

丁寧に解説しますので、確認してください。



(1)新年金制度の特徴

昭和61年4月2日に施行された、新年金制度とはどのような改革だったのでしょうか。

その大きな特徴は以下の3つです。
この3つのポイントを知っていると、年金は理解しやすくなります。


1)昭和生まれ向けの年金支給制度
昭和61年4月1日当時、大正以前生まれの人の多くはすでに、60歳以上でした。当時、旧国民年金・旧厚生年金保険から老齢年金を受給していました。

これらの方々は新法移行後も、旧法のルールに基づき老齢年金が支給され続けました。

昭和61年(1986年)4月2日に施行された新制度の対象者は、当時60歳以下だった大正15年(1926年)4月2日以降に生まれた方たちです。
大正は15年12月24日で終了し、翌12月25日からが昭和です。

新制度は、昭和生まれを対象にした年金制度と言えます。

これは偶然そうなったのではなく、明らかに昭和生まれ向けの年金支給制度改革を狙って、この日に法施行をしたと思われます。


2)2階建て年金
昭和61年の新制度前、自営業者の方は(旧)国民年金に強制加入していました。
いっぽう、サラリーマンの方は、(旧)厚生年金保険に同じく強制加入をしていました。
この二つの年金制度はそれぞれ独立した制度でした。

国民年金は25年以上保険料を納付すると65歳から、厚生年金は20年以上保険料を納付すると60歳から、老齢年金が支給されました。
サラリーマンから自営業者へ、あるいは自営業者からサラリーマンへと途中で転職した方に対しては、両制度を合計した加入年数が25年以上あれば、老齢年金が支給されました。
この制度を通算老齢年金といいます。


昭和61年年金制度の改革が行われ、(新)国民年金法・(新)厚生年金保険法が施行されました。
日本の住む20歳以上60歳未満の大人は、原則全員が国民年金の第1・2・3号いずれかの被保険者となり、サラリーマンはさらに厚生年金保険の被保険者にもなるという、2階建て年金制度が開始されました。
国民年金と厚生年金保険が連携したといえます。


そして、老齢・障害・死亡といった事故に対して、年金支給の可否は、原則国民年金保険料の納付状況で判断されることになりました。

3)支給開始年齢 60歳から65歳へ
昭和60年4月2日の厚生年金保険法の改正により、老齢厚生年金の支給開始年齢は60歳から65歳に繰り下げられました。
しかし、当面その履行は凍結され、実際に繰り上げが開始されたのは、平成13年4月2日以降です。
そのやり方も平成13年から、25年かけての段階的に支給開始年齢を繰り下げるというものです。
令和2年現在も繰り下げが行われている途中です。

この施策こそが、高齢者ほど有利、若年者ほど不利といえるものです。
その原因は、少子高齢化の進展と年金財政のひっ迫です。

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この図はどの受験テキストにも必ず掲載されているものです。
生年月日別の老齢厚生年金の支給開始年齢を表しています。

若年者ほど支給開始年齢が遅くなり、男性は昭和36年4月2日以降、女性は昭和41年4月2日以降に生まれた人は、65歳まで老齢厚生年金・老齢基礎年金が支給されないことを表しています。
そのこと自体は図を見てのとおりですが、それだけでは少し説明が足りないと思います。


(2)報酬比例部分の老齢厚生年金・定額部分の老齢厚生年金

60歳から64歳まで支給される「報酬比例分」・「定額部分」はなぜ老齢厚生年金から支給されるのでしょうか。
「定額部分」は、なぜ老齢基礎年金から支給されないのでしょうか。
なぜ「特別支給の老齢厚生年金」という名称なのでしょうか。

それを理解するためには、旧厚生年金保険のことをちょっとだけ知っている必要があります。

1)旧厚生年金保険 老齢年金とは
昭和29年5月19日に施行され、昭和61年4月1日まで運用されていた旧厚生年金保険 老齢年金の概要は以下のとおりです。

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この考え方は、そっくり現在の老齢厚生年金と老齢基礎年金に引き継がれています。

比例報酬部分 ➡ 老齢厚生年金 保険料納付の期間と金額に比例
定額部分   ➡ 老齢基礎年金 保険料納付の期間のみに比例
加給年金(旧)➡ 加給年金(新)対象となる配偶者がいれば
*上図では加給年金を割愛

旧厚生年金保険が適用になる大正15年4月1日以前生まれの図と、新制度が適用になる大正15年4月2日以降生まれの図とつなげると、こうなります。

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新制度の対象となる人は、大正15年(1926年)4月2日以降に生まれた人です。
大正15年4月2日生まれの人は、昭和61年(1986年)新制度発足時は60歳です。
この方々の老齢年金をいきなり65歳から支給とすることは、さすがにできません。
60歳からもらえると思った年金を、あと5年も遅らせることはできません。

そこで、暫定的な移行措置として、当面老齢厚生年金は60歳から支給することにしました。
その名称を「特別支給の」老齢厚生年金と名付け、報酬比例部分、定額部分という名称も旧制度からそのまま引き継がれたのでした。

時系列でまとめると以下①~⑧のとおりです。


①旧厚生年金保険の老齢年金支給開始年齢は60歳、旧国民年金老齢年金支給開始年齢は65歳だった。

②旧厚生年金の老齢年金は、保険料納付の期間と金額に比例する「報酬比例部分」と保険料納付の期間のみに比例する「定額部分」という2種類の計算方法で成り立っていた。
 (+加給年金)


③昭和61年(1986年)4月2日、昭和生まれを対象とした新制度が施行、2階建て年金となり、比例報酬部分が概ね老齢厚生年金・定額部分が概ね老齢基礎年金となり、ともに支給開始年齢が65歳となった。

④急に年金支給開始年齢が5年も遅れると、当時60歳に近い人ほど困る。

⑤そこで、60歳から64歳まで「特別支給の老齢厚生年金」という名称で、暫定的に旧制度の報酬比例部分・定額部分をそのまま流用し、60歳支給開始を維持した。 

⑥平成6年(1994年)の法改正により、平成13年(2001年)から、昭和16年(1941年)4月2日以降生まれを対象(法改正時53歳以下)に、定額部分の支給開始年齢を順次繰り下げることとなった。

⑦平成12年(2000年)の法改正により、平成25年(2013年)から、昭和28年(1953年)4月2日以降生まれを対象(法改正時47歳以下)に、比例報酬部分の支給開始年齢を順次繰り下げることとなった。

⑧昭和61年(1986年)に制度化した65歳からの支給開始は、昭和36年(1961年)4月2日生まれの人が65歳になる令和8年(2026年)4月2日に完成する。

昭和61年(1986年)から令和8年(2026年)まで、実に40年かけての大制度改革です。
受験テキストでは、この流れの説明が詳しくありません。
(特に上記②と⑤)

そのため「なぜ特別支給というのか」「なぜ、定額部分が老齢基礎年金に置き換わるのか」などの理解ができず、年金を体系的に理解するのに相当の時間を要してしまいます。

旧制度は社労士試験の範囲外ですが、概要だけは知っていると、試験勉強が楽になります。

(3)女性が5年遅れの理由

女性の支給開始年齢の繰り下げが男性より5年遅れている理由を説明します。

旧厚生年金保険では、女性の老齢年金支給開始年齢が、55歳でした。

昭和61年の新制度にて、男女とも60歳から特別支給の厚生老齢年金が支給されることになりました。
しかしながら、これまで55歳支給開始だったものを、いきなり60歳からとすることはできません。

そのため、新年金制度支給対象者である大正15年4月2日~昭和15年4月1日生まれの女性を対象(昭和61年法改正当時46~59歳の女性)に、支給開始年齢を55歳から59歳までに段階的に引き上げを行っていました。

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この移行措置は平成11年4月1日に完了しています。
この措置どおりだと、昭和15年4月2日以降に生まれた女性の支給開始年齢は60歳です。

ところが、平成13年からの制度改正により、女性の老齢基礎年金年齢繰り下げを、男性同様に昭和16年4月2日以降生まれから対象にしてしまうと、改正が性急すぎるとの判断となりました。

そのため、女性は男性から5年遅れて、昭和21年4月1日以降生まれから繰り下げの対象となり、以降男性に5年ずつ遅れることになりました。


(4)給付乗率の読み替え ふたたび

ここで、老齢厚生年金および長期要件に該当する遺族厚生年金の額を計算するときに適用される、「生年月日に応じた給付乗率の読み替え」について、ふたたび説明をします。
給付乗率の読み替えについては、一度こちらでも触れています。

再確認すると

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こちらの給付乗率について、老齢厚生年金額と長期要件に該当する遺族厚生年金額については、以下の赤字のとおり読み替えるというものでした。

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なぜこのような読み替え制度が存在するのか・・

理由は、新制度ができた昭和61年4月2日当時、すでに40歳以上だった人たちの救済です。

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この表は、旧厚生年金保険と、2階建て年金となった新制度それぞれの、65歳からもらえる老齢年金の額を試算したシミュレーションです。
(老齢基礎年金や加給年金の金額は、現在のものです。)

モデル
夫婦は同い年

夫:平均標準報酬月額が300万円
  厚生年金保険に40年間加入

妻:夫に扶養された専業主婦
  厚生年金保険への加入歴なし
  

少子高齢化の時代を見据え、新制度では年金総額を大きく削減されているのが、お分かりいただけると思います。

もうひとつ、旧制度と新制度の大きな違いは、妻の年金額です。
昭和61年4月1日以前、専業主婦の国民年金加入は任意でした。
夫が受給する旧厚生年金保険の老齢年金にて、夫婦で老後をすごすことを前提に制度設計がされている人も多くいました。

新制度では、専業主婦は第3号被保険者となり、自身の老齢基礎年金が支給されます。

そのため、夫分の老齢厚生年金と老齢基礎年金の金額は、給付乗率を大幅に下げたため、同じ収入であっても旧制度と比較し、減額となっています。
夫婦合わせてやっと、旧制度約299万円が新制度259万円と少し減額が緩和されるという状況です。

しかし表のとおり、大正15年4月2日生まれの妻は、これまで第3号被保険者としての期間がありませんので、旧国民年金に加入していなかった場合、老齢基礎年金はありません。
それを救済する制度として、振替加算という制度があり、227,800円の加算があります。

さらに夫に支給される老齢厚生年金の給付乗率を、生年月日に応じて調整し、年長者の年金額が低くなりすぎないように調整しているのが、お分かりいただけると思います。

以上が、生年月日に応じた給付乗率のある理由です。

これも、旧年金制度のため、社労士試験の範囲外ですから、数値や率の詳細を覚える必要はありません。
概要だけ知っていてください。


(5)おまけ

ちなみに・・
この40年かけての大改革は相当緻密の組み立てられています。

昭和36年(1961年)4月2日、国民年金法が施行され国民皆年金が実現した日を基準に考えると、

老齢厚生年金を60歳からもらえる人:
昭和16年4月1日以前生まれ
国民皆年金が実現した日に、20歳以上だった

老齢厚生年金を61~64歳でもらえる人:
昭和16年4月1日~昭和36年4月1日生まれ
国民皆年金が実現した日に、未成年だった。

老齢厚生年金を65歳からもらえる人:
昭和36年4月2日以降生まれ
国民皆年金が実現した日以降に生まれた。

年金改革は長い歳月をかけて、制度設計されていることがお分かりになると思います。

社労士試験 年金がわからない人へシリーズはこれで終了です。

受験テキストの「国民年金法」「厚生年金保険法」のページをもう一度読み直してください。

きっと、理解できるようになっているはずです。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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