見出し画像

6.夫・子を助ける年金制度

ご訪問いただきありがとうございます。

社労士試験の学習をしているあなたは、「年金の2科目は、他と比較して格別に難しく、基礎からしっかり説明してくれるテキストがあれば・・」と感じたことはありませんか。

このnoteの目的は、社労士を目指している方が、年金2科目のテキストに書いてあることを理解できるようにすることです。
社労士試験最大のヤマ場であろう年金制度の基本となる考え方や、なぜそのよう仕組みなのかを主眼に解説します。

noteは全部で9つあります。
全部読んだあともう一度、受験テキストを読んでみてください。
難解だった年金がすっきり頭に入るようになります。
今回のノートは第6回目です。

(1)夫を助ける年金制度

今回は、前回から引き続き、夫・子・その他の親族を助ける年金制度について説明します。

妻の老齢・障害により夫を助ける制度は、夫の老齢と障害により妻を助ける制度と同じです。
老齢(基礎・厚生)年金と障害(基礎・厚生)年金に男女に差がありません。
妻の死亡により、夫を助ける遺族厚生年金の制度にのみ、男女に差があります。
したがって、ここでは妻の死亡により夫が受給できる遺族基礎年金・遺族厚生年金についてのみ解説します。


配偶者の死亡により、男女で差がある年金制度は以下のとおりです。

1)遺族厚生年金は、妻の死亡時に夫は55歳以上でなければ受給資格が発生しない。さらに、受給資格があっても60歳まで支給されない。
男女で大きく差がある部分です。
ただし、例外があり、妻の死亡時に夫が55歳以上、かつ夫が遺族基礎年金を受給している期間は、遺族厚生年金も支給されます。

2)寡婦年金、中高齢寡婦加算、経過的寡婦加算は夫には適用されない。
これも男女で差がある部分です。
多くの女性が専業主婦として生きていた昭和の時代に作られた制度の名残です。

遺族基礎年金に、男女の差はありません。
妻が死亡した場合は、最後の子が高校卒業の年度末まで、夫にも遺族基礎年金が支給されます。

パターン別に確認しましょう。

1)妻死亡時 夫55歳以上・高校生以下の子がいない

画像1

妻の死亡時、夫が55歳以上であれば、遺族厚生年金の受給資格があります。
しかし実際には60歳までその支給は停止されます。

夫が65歳になって自分の老齢厚生年金を受給できるようになると、一人一年金の法則が発動し、妻の遺族厚生年金と自分の老齢厚生年金の両方を満額で受給できないルールは男女共通です。

また、妻の死亡時に高校生以下の子がいない場合、夫に遺族基礎年金は支給されません。
遺族基礎年金の趣旨は、残された子の生活を保障する制度だからです。
条件を満たした妻に支給された寡婦年金の制度も、夫には適用されません。


2)妻死亡時 夫55歳以上 高校生以下の子あり

画像2

妻の死亡時、高校生以下の子がいた場合は、夫の年齢に関係なく、遺族基礎年金が支給されます。
さらに、夫が55歳以上だった場合は、遺族厚生年金も子が高校卒業まで支給されます。
夫が遺族基礎年金の支給を受けている期間は、同時に遺族厚生年金も受給できるのです。
夫が60歳になる前に、子が高校卒業の年齢になった場合、いったん夫への遺族厚生年金は支給停止されます。
夫が60歳になると、その支給は再開します。


3)妻死亡時 夫55歳未満 高校生以下の子がいない

画像3

妻死亡時に、夫が55歳未満だった場合、夫に遺族厚生年金は支給されません。
また、高校生以下の子がいない場合は、遺族遺族基礎年金も支給されません。
この場合、妻の死亡により夫に支給される年金はありません。


4)妻死亡時 夫55歳未満 高校生以下の子あり

画像4

妻の死亡時、高校生以下の子がいる場合、遺族基礎年金は支給されます。
しかしその際、55歳未満の場合は遺族厚生年金の受給資格は発生しません。


以上のとおり、遺族基礎年金と遺族厚生年金について、対妻・対夫で全く制度が異なることを中心に学習すると、理解が深まります。


(2)子を助ける年金制度

親の老齢・障害・死亡により、残された子を助ける制度は、妻・夫を助ける制度と比較すると単純です。

子に支給される年金は、高校を卒業する18歳の年度末を過ぎると、支給されなくなります。

それ以降は、年金のコンセプトどおり、自分自身で生活の安定を図らなければなりません。

1)親(=被保険者)が老齢になり収入がなくなる

画像5

親が65歳の老齢となり収入がなくなることに対する、子への保障は多くはありません。
厚生年金保険に20年以上加入していた親が、老齢厚生年金を受給するようになると、高校生以下の子へ保障分として、加給年金が支給されます。
金額は、2子までは一人につき224,700円×改定率、3子からは74,900円×改定率です。
両親ともに厚生年金保険に20年以上加入し、更に高校生以下の子がいる場合、両方の親の老齢厚生年金に加給年金を加算されます。

老齢厚生年金に対する加入年金は、あくまでも親本人に支給される制度です。
子に直接支給される制度ではありません。


2)親が障害になり収入がなくなる

画像6

親が障害となり、障害基礎年金の支給が開始されたとき、高校生以下の生活を保障するため、子の人数に応じて年金額が加算されます。
その金額は、老齢厚生年金の加給年金額と同額、2子までは一人につき224,700円×改定率、3子からは74,900円×改定率です。
障害厚生年金には、子に対する保障制度がありません。

3)親が死亡し収入がなくなる

画像7

親が死亡したことによる、子への保障がやや複雑です。
遺族基礎年金・遺族厚生年金ともに、死亡していないもう一方の親に優先的な受給資格があるためです。

以下整理します。

1)遺族基礎年金
残された親がいる場合、原則親に受給資格があります。
金額は遺族基礎年金の額プラス子の人数に応じた加算額です。
残された親がいない、あるいは受給資格のある親がいない場合は、子が同額を受給します。

2)遺族厚生年金
父親死亡・母親存命の場合は、母親の受給資格が優先します。
その後母親も死亡した場合など、母親の受給資格が無くなった時点で、子が高校生以下の場合、子に受給資格が発生します。

母親死亡・父親存命の場合、母親死亡時に父親が55歳以上の場合は、父親の受給資格が優先です。
父親に受給資格がある期間、子には受給資格がありません。

母親死亡時に父が55歳未満の場合、前述のとおり父親は受給資格がありませんので、その場合は高校生以下の子に遺族厚生年金が支給されます。

以上が子を助ける制度です。


(3)その他の親族を助ける年金制度

遺族厚生年金は、亡くなった被保険者の遺族となる配偶者・子がいない場合、被保険者の父母・孫・祖父母の優先順位で受給資格が発生します。

その際、配偶者の受給資格がなくなった場合、子に受給資格は移りますが、父母・孫・祖父母は上位の受給権者が失権しても、次の順位の親族に受給資格は移りません。
(ちなみに、労働者災害保険法の遺族年金は、転給します)


父母・祖父母に支給される遺族厚生年金は、被保険者の死亡時55歳以上で受給資格が発生し、60歳から支給開始されます。
孫に支給される遺族厚生年金は、18歳の年度末で失権します。
考え方は子に支給される遺族厚生年金と同じ考え方です。

被保険者の老齢・障害に対して、その父母・孫・祖父母に支給される年金は、加入年金や加算を含め、一切ありません。
また、父母・孫・祖父母に遺族基礎年金は支給されません。


(4)加算・加給年金のまとめ

各年金には、基本的な年金金額のほかに、条件が合えば加算制度があります。

以下の表はそのまとめです。

画像9

このように整理すると、厚生年金は配偶者に加給年金、基礎年金は子に加算を主としていることがよくわかります。

受験対策テキストは、国民年金と厚生年金保険を別々に編集しているため、このような整理の記述が少ないのが実情です。
年金の学習には、国民年金と厚生年金保険をタテ・ヨコ両方で整理すると全貌が見えてきます。


(5)20年・25年ルールについて

厚生年金にて加給年金や中高齢寡婦加算が支給される条件として、20年(240か月)以上、厚生年金保険料を納付すること、というものがあります。
また、国民年金保険料納付実績10年の条件は、2017年(平成29年)までは、25年でした。
(25年も保険料を納めないと、老齢の年金が1円ももらえないのはあまりに理不尽、との国民の声を受けて、法改正がされています。)
遺族基礎年金や遺族厚生年金において、長期要件に該当するにも、25年以上国民年金保険料を納付することが必要です。

これらのルールは旧年金制度の名残りです。

画像9

昭和61年4月2日に新年金制度が施行されました。
それ以前の旧制度は、社労士試験の範囲外です。

けれども、この表に記載されている事項を知っていると、年金制度の理解はとても早まります。
次回以降、詳しく説明しますが、ぜひ覚えてください。

(6)最後にまとめ

1)妻以外の大人は、被保険者の死亡時55歳以上でないと、受給資格はない。しかも、60歳まで支給は停止される。
父母・祖父母はそれでもよいと思いますが、夫には厳しすぎるルールです。

2)子・孫は18歳の年度末になる保障がなくなる。
大学にも安心して進学できるような制度改正が望まれます。



今回のnote
社労士試験 年金がわからない人へ 6
老齢年金支給で保障完了
6.夫・子を助ける年金制度~
  は
これで終了です。

お読みいただき、ありがとうございます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?