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8.昭和61年 主婦も加入 真の国民皆年金へ

ご訪問いただきありがとうございます。

社労士試験の学習をしているあなたは、「年金の2科目は、他と比較して格別に難しく、基礎からしっかり説明してくれるテキストがあれば・・」と感じたことはありませんか。

このnoteの目的は、社労士を目指している方が、年金2科目のテキストに書いてあることを理解できるようにすることです。
社労士試験最大のヤマ場であろう年金制度の基本となる考え方や、なぜそのよう仕組みなのかを主眼に解説します。

noteは全部で9つあります。
全部読んだあともう一度、受験テキストを読んでみてください。
難解だった年金がすっきり頭に入るようになります。
今回のノートは第8回目です。

昭和36年国民年金法施行により、国民皆年金制が実現しました。
その当時一定の年齢まで達していた年長者が年金受給の際、不利にならないようその救済制度についてを解説したのが、前回です。
今回は昭和61年の年金制度改革と、それをベースにした派生した制度の説明をします。

昭和36年国民皆年金制度が実現したと申し上げましたが、実は皆年金に含まれていないたいへん大きな塊の人たちが存在していました。
サラーマンに扶養されている専業主婦の女性たちです。
昭和36年国民年金法施行当時からサラーマンの妻で専業主婦の方は、国民年金への加入は任意でした。
そして、国民年金に加入しない専業主婦も多くいました。


昭和61年の年金制度改革、2階建て年金制度により、これら専業主婦の人たちも年金制度に加入となりました。
真の国民皆年金が完成しました。
(実はまだ20歳以上の大学生の方々が残されていました。彼らの年金加入は任意でした。加入が義務化されたのは平成3年です。)

振替加算や経過的寡婦加算など年金の難解な制度は、昭和61年当時、一定の年齢に達していた主婦たちを救う制度です。

それでは本題に入りましょう。


(1)サラリーマンの妻を強制加入へ

昭和36年国民年金法(旧)が施行の際、サラリーマンの妻・専業主婦の方々の加入は任意でした。

昭和61年新国民年金法の施行により、これらの方々(正確にはサラリーマンに扶養されている配偶者)は、第3号被保険者として、国民年金に強制加入となりました。

第3号被保険者は、実質保険料を納付しませんが、老齢・障害・死亡事故の際、他の条件も満たせば、基礎年金が支給されます。

ところで、年金2科目を初めて学習をすると、女性に向けた支給制度が難解に感じると思います。
例を挙げると、振替加算・中高齢寡婦加算・経過的寡婦加算・寡婦年金・遺族厚生年金若年の妻などです。
ちなみに振替加算は男性でも受給できますが、テキストなどの解説でも主に女性が受給する前提で書かれているものが多いと思います。

これらの制度は2グループに分かれます。

Aグループ 昭和61年から年金に加入した第3号被保険者を救済する制度
振替加算、経過的寡婦加算

Bグループ 中年以上の女性は経済力がないので救済すべきという制度
中高齢寡婦加算、遺族厚生年金若年の妻の失権、寡婦年金

Aグループについて
昭和36年国民年金法が施行された際、サラリーマンに扶養されている配偶者(以下専業主婦と言います)の年金加入は任意だった件は、先述のとおりです。
そして、国民年金に加入しない専業主婦の方も多くいました。(約20~30%と言われています)

昭和61年新制度が施行され、専業主婦は第3号被保険者となり、将来は自身の老齢基礎年金を受給できるようになりました。
問題は、その時の年齢です。

老齢基礎年金額は、満額×保険料納付月数/480か月(40年)です。
これまで保険料を納めていない専業主婦の老齢基礎年金は、保険料納付月数が少なくならざるえを得ません。
結果、老齢基礎年金の金額が少なくなります。
前述のとおり、65歳になり老齢基礎年金の支給が開始されると、国の保障は一区切りがつきます。
その金額が少なくても、それは保険料を納めてこなかった自己責任のという考え方でした。

しかし、専業主婦の老齢基礎年金額が少なくなるなのは、自己責任とは言い切れません。
その救済として振替加算、経過的寡婦加算があります。

(3)振替加算とは

まずは、旧制度だった昭和61年以前、妻が旧国民年金に任意加入していないサラリーマン夫婦の典型的な年金受給パターンです。

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現代とは異なり、昭和のサラリーマンの妻の多くは、若くして結婚し、専業主婦として生きていました。
厚生年金に加入するような勤め方をする女性も少数派でした。

結婚する前に勤めていた会社で厚生年金に加入していたとしても、在職年数も少なかったので、金額は決して多くはありません。

旧国民年金に任意加入しなかった専業主婦は、サラリーマンである夫の老齢年金に加え、妻の扶養手当として支給される加給年金で、夫と老後を暮らすというマネープランでした。

やがて、昭和61年年金改正の日が訪れます。
専業主婦は、第3号被保険者となり、年金保険料を納付しなくても、65歳から老齢基礎年金が受給できることになりました。
問題はその時の年齢です。

昭和61年4月2日時点での年齢が高いほど、60歳までの残された年数=被保険者としての保険料納付期間が短くなり、結果老齢基礎年金が少なくなります。
(決して、全ての女性ではありません)

それを補うため、夫の老齢厚生年金に加給年金が支給されていた場合、65歳以降は妻の老齢基礎年金に振替加算が支給されます。
その金額は、年齢が高い人ほど高くなります。

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一方、昭和41年4月2日以降の生まれた人には、振替加算は支給されません。
その方々は、昭和61年4月2日時点では20歳以下であり、60歳までまるまる40年間が残されているからです。


昭和41年4月2日以降に生まれた人の老齢基礎年金が低くても、それは国の制度変更によるものではなく、自己責任だという考え方です。

夫が障害厚生年金の支給を受けている場合も、条件を満たせば、妻が65歳になるまで加給年金が支給されます。
この場合も、昭和41年4月1日以前に生まれた妻が65歳になり、老齢基礎年金が支給されるようになると、振替加算も支給されます。

(4)経過的寡婦加算とは

経過的寡婦加算は、サラリーマンだった夫の死亡により、遺族厚生年金を受給している妻が、65歳になり老齢基礎年金を受給するようになると、支給されます。
ただし、夫が20年以上厚生年金保険に加入していた場合に限ります。

この制度の主旨は振替加算と全く同じです。
老齢基礎年金の額が少ないサラリーマンの妻の救済です。


全体を整理をすると以下のとおりです。

20年以上厚生年金保険に加入していた夫が・・
・老齢になり老齢厚生年金受給の際、妻分の加給年金も受給
 ⇒妻が65歳になり、老齢基礎年金を受給、加給年金は支給停止
  昭和41年4月1日以前生まれの妻には振替加算が支給される。


厚生年金保険に加入していた夫が・・
・障害となり障害厚生年金受給の際、妻分の加給年金も受給
 ⇒妻が65歳になり、老齢基礎年金を受給、加給年金は支給停止
  昭和41年4月1日以前生まれの妻には振替加算が支給される

20年以上厚生年金保険に加入していた夫が・・
・死亡し妻が遺族厚生年金を受給
 ⇒妻が65歳になり、老齢基礎年金を受給、中高齢寡婦加算は支給停止
  昭和31年4月1日以前生まれの妻には経過的寡婦加算が支給される。

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以上が、Aグループ 昭和61年から年金に加入した第3号被保険者を救済する制度の解説でした。

続いて、
Bグループ 中年以上の女性は経済力がないので救済すべきという制度
中高齢寡婦加算、遺族厚生年金若年の妻の失権、寡婦年金 についてです。

これらの制度は、昭和61年の年金改正とは直接関連していません。
単に中年以上(40歳以上)の女性は、一般に経済力がないので救済すべきというコンセプトで成り立っている制度です。

(5)中高齢寡婦加算とは

夫が死亡しても、高校生以下の子がいない妻には遺族基礎年金が支給されません。
高校生以下の子とは、正確には18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子のことです。


妻が40歳を過ぎてから、遺族基礎年金が受給できないという状態を救済するため、中高齢寡婦加算という制度があります。
中高齢寡婦加算が支給されるパターンは以下の2とおりです。

夫の死亡時に・・
①高校生以下の子の無い夫婦:妻が40歳以上
②高校生以下の子がいる夫婦:子が高校を卒業し、妻の遺族基礎年金が失権したときの妻の年齢が40歳以上

中高齢寡婦加算の金額は遺族基礎年金の金額の3/4です。

妻のみに支給され、しかも生年月日による制限はありません。
昭和61年の制度変更とは直接関連せず、40歳を過ぎた女性の経済力を考慮した救済策です。


(6)遺族厚生年金若年の妻の失権

若くして(妻が30歳以下)夫に先立たれた妻は、子がいなければ遺族厚生年金を5年間しか支給されません。
「若い妻はまだ人生をやり直せるので、救済はしない」という考え方です。
中高齢寡婦加算の「年配の妻を救済する」とは裏返しの考え方です。

(7)寡婦年金とは

夫が第1号被保険者として10年以上保険料を納付し死亡した際、子がいなければ遺族基礎年金は支給されません。
そうなると、納付した保険料が全くの掛け捨てとなってしまいます。
それを回避するために、妻が60歳から65歳の間、寡婦年金が支給されます。

一度遺族基礎年金を受給し、子育てが終わったため、60歳前にその支給が終わった妻にも支給されます。
夫の生前、10年以上婚姻生活を続けてきた妻という条件があります。
男性が同じ条件になっても支給はされません。
老齢の女性を救済する制度です。



妻に支給される制度について、受験テキストでは「なぜそのような支給制度があるのか」詳しく記載されていないように見受けられます。

ここで解説したように、
A:突然第3号被保険者となったサラリーマンの妻の老齢基礎年金を補填する目的
 (昭和61年年金改正をルーツとするもの)
B:単に高齢の女性の経済力に実態をかんがみ救済するもの

以上2通りの主旨があることを理解してください。

(8)最後にまとめ

1)昭和61年サラリーマンの妻を第3号被保険者へ
この方々は途中から年金制度に加入したため、保険料納付期間が少なくなります。
そのため、国が保障完了と位置付けている老齢基礎年金の金額が少なくなってしまいます。

2)振替加算・経過的寡婦加算は老齢基礎年金の補填
サラリーマンの妻の少ない老齢基礎年金を補填するため、振替加算・経過的寡婦加算の制度があります。

3)制度変更と関係ない、高齢の女性の経済力を考慮した救済制度もある
中高齢寡婦加算・寡婦年金などです。


今回のnote
社労士試験 年金がわからない人へ 8
40年がかりの制度改革
8.昭和61年 主婦も加入 真の国民皆年金へ
  は
これで終了です。

次回のnoteは

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