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【超短編小説】あたし達の明日

大好きなコウ君。
今日もずっと下を向いたまま、
どうしたの?

あたしは、コウ君の機嫌を探る。
怒ってる?
嫌な事あった?
つまならない?
それとも、ただ疲れただけ?

コウ君のこと、ずっと見てる。
飽きもせず、よく見ていられるね、って友達には言われる。不思議ちゃん、と嘲られるあたしだ。
自分でも不思議。
彼のこと、ずっと、ずっと瞳の中に据えられる。

コウ君は動かない。
そんなところも好きだ。
眠っているわけではない。
目は、はっきりと開いているのだもの。
何を見つめているの?

あたし、辛い時はコウ君のことを思い浮かべる。
そして、コウ君になりきってみる。
コウ君だったら、こういうとき、どうするの?
って考える。
嫌なことがあっても、コウ君なら傷つかない、って思えば、あたしも乗り越えられるもの。
コウ君ならきっと気にしない。
あたしもコウ君になりたかったんだ。
え? 今からでもなれる?
コウ君がそう言ってくれた。そんな気がした。
ありがと。
でも、無理だよ……。
コウ君みたいに翼があるわけじゃないもの。
コウ君はいつだって飛び立っていける。
まったく動かないようでいて、突然翼を羽ばたかせる。そして、あっという間に、一瞬のうちに、高い、高いところに飛び立っていける。

ハシビロコウの、コウ君。

コウ君、あたし、コウ君にはなれないけど、コウ君のようにジッとしていることもできないんだ。でもね、いつか、飛び立って見せるよ。
空にではなく、あたしの行きたい明日に。
そしたら一度、コウ君の故郷に行ってみたい。
野生のハシビロコウをこの目で見てみたい。
応援しててね、コウ君。

 その瞬間、ハシビロコウは羽ばたいて飛び上がり、檻の中を滑空しながら再び水飲み場へ降り立った。

 人間よ、なぜ俺を見ている?
 飛べない俺を見るのが楽しいか?
 まさか、「コウちゃん」なんて変なあだ名で、俺を呼んではいないだろうな?
 俺はいつも怒っている。
 いつもイライラしている。
 俺を閉じ込めるお前たち人間に対して。
 そして、無力な己自身に対して……。
 お前たち人間に捕まり、こんな檻の中に閉じ込められ、挙句の果てに『動物園』だと?
 哀れで無様な姿を見せ物にするお前たち人間の神経が俺には分からない。俺から空を奪った人間達が、なぜ俺を見てキラキラと目を輝かせているのだ? 俺には分からない。
 だが誓う、誓ってやる。
 いつか、いつか俺はこの檻をぶち壊し、動物園を抜けて空を取り戻す。俺の空を取り戻す!
 見ていろよ、人間。

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