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慎一郎&杏太 インタビュー

ホタルの盟友、慎一郎と杏太によるユニットが
アルバム『いつか死ぬ僕らの死なない歌』をリリースする。
アコースティックだけにとどまらないさまざまなサウンド、
本当に歌いたいことだけを真摯に言葉にした歌詞、
二人の生きる姿勢が詰まったような作品になっている。
とはいえ、構えて聴く必要はない。
今生きている誰の心にも自然に響くはずなのだから。

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●二人でユニットとして活動を始めて6年とのことですが、最初から、今回のアルバムのようなサウンドをイメージしていたんですか。アコースティックだけではなかったので少し驚いたんですが。
杏太:それは、だんだんだよね。最初はアコースティックユニットでした。ミニアルバムを1枚作ってるんですけど、そのときはアコースティックの音しか入れてないですね。それがだんだん変わってきたんです。

●ライヴは二人だけで?
慎一郎:ライヴはアコースティックがメインなんですけど、イベントによってはバンド編成で出ようかというときがあったんです。だから、アコースティックで作ってた曲をバンドバージョンに編曲してライヴをしたこともありました。それが意外とよかったので、曲によってはバンド編成で録ろうか、という話が出たりして、変わっていった感じですね。
杏太:このユニットを始めたときは、まだホタルが復活してなかったのもあって、バンドもやりたいよねって思ったんです。それでバンドバージョンを作ったりしてる中でホタルが始まっちゃって、差別化が難しくなってきたところもあって、一回アルバムを作ろうと。

●アルバムを制作するにあたって、どういうサウンドにするかを改めて考えたんですか。
杏太:そうですね。最初はバンドバージョンだけのミニアルバムにしようかとか話してたよね。でも今回は、ごちゃまぜでいいかと。俺もEDMが好きで打ち込みをやってたんで、そういうのを持っていったり。それも、ホタルと違うから逆にいいんじゃないって。

●アルバムの制作はいつ頃から始めたんですか。
杏太:1年半ぐらい前かな。コロナの第一回目の自粛期間中ぐらいに、ヒマだし、何かやろうよって話して、アルバムを作りたいんだよねって。そこから本格的に作り始めました。その時点で半分ぐらい曲はあって、残りはそれから書きました。
慎一郎:最初は、既存の曲だけでミニアルバムにする話もあったんですけど、せっかくだから、フルアルバムにしちゃおうよって。杏太さんがハイペースで曲を作ってきたから、できるんじゃない?って。

●アルバムの並びとかを考えて曲を作ったわけでもなく。
杏太:何となく、こういう曲はなさそうだなっていうのを埋めていった感じですね。「スターチス」とか「残想」とか「ハーメルン」は、3、4年ぐらい前に作って、人気もある曲で、どうレコーディングしようかなってずっと宙ぶらりんにしてたから、早く録りたかったんです。「向日葵」と「今、光を」は、コロナ中にそれぞれが書いたんですけど、早く届けたかったから、CD-Rでライヴ会場で売ったんですよ。その後に「細胞」と「茜さす部屋」もレコーディングして、またCD-Rで売って。これで4曲できたから、アルバムが見えて来たじゃんって、お互いにテンションを上げつつ。そうしないと、なかなか二人でアルバムには取り掛かれなかったんですよね。

●それはどうして? 大変だから?
杏太:ここ何年かはホタルを主軸に動いてきちゃったから、その隙間を縫ってやるとなると結構大変なんです。どう腰をあげようかなっていう感じでやってましたね。

●ギター以外にもいろいろな音が入っていますが、全部杏太さんが作ってるんですか。
杏太:二人で。慎君も打ち込みやるし。
慎一郎:ベースは杏太さんが弾いてます。

●リズムは全部打ち込みなんですね。
杏太:外注してもよかったんですけど、二人だけのほうがコストも安いし、二人だけで完成できたら、未来があるなと思って自分でやっちゃいましたね。鍵盤だけは弾いていただいています。
慎一郎:自分たちでできたねっていう実績があると、このまま先も作れるんじゃないかと思うんで。

●曲数も11曲あるうえに、一曲一曲が長いので、かなりのボリューム感ですよね。
慎一郎:杏太さんの曲が超長いんですよ。7分ぐらいある。詰め込みたいだけ詰め込みたいんだなって思いました。
杏太:できるだけアイデアを出していきたいと思うから長いんだと思います。
慎一郎:足し算しかしてないです(笑)。
杏太:間奏とかが好きなんですよ、アウトロとかね。そこらへんで尺をとっちゃうんだと思います。
慎一郎:最近の曲だと3分半くらいですか。

●最近の曲は3分代じゃないですかね。どんどん短くなってますから。
杏太:たぶんホタルのほうがそういうことは意識するんだと思う。このユニットでは、もっと好きなことをやろうという感じです。

コロナ禍の今を生きる二人から生まれたアルバム

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●アルバムの最初は、「道化師」から「ハーメルン」と世界観があって、寓話っぽい雰囲気で幕が開きます。ちょっと意外で新鮮でした。
杏太:結局二人はそういう世界観があるものが好きだから。

●世界観が西洋の世界だったから新鮮だったのかも。
杏太:あ~、そうか。そうかもね、確かに。何も考えてなかった。そう言われるとそうですね。
慎一郎:効果音とかに関しては、全部杏太さんです。風の音とか「道化師」の頭のところとか。
杏太:「道化師」は、サーカス団というか、ピエロが踊ってる感じなんです。歌の内容は全然違うんですけど。

●「道化師」には、構想というクレジットが入っていますが、曲を作る前に何かあったんですか。
慎一郎:羽中田さんという人なんですけど、20歳ぐらい上の会社の先輩なんです。ギターを弾くのが好きな人で、ギターは弾けるけど曲が作れないっていう話をされたんですね。それで一緒にスタジオに入って、こんなイメージでこうなんだけどっていうのを聞いて、ギターのコードとメロディをその場で何となく歌ったりして。そこからディスカッションしてできたのがこの曲なんですよ。道化師のイメージで作りたいということで、ちょっと弱い男の部分を道化師っていうものにたとえて歌詞も書いたんですね。そのとき、いつか必ず音源にして渡すからって約束したんですけど、実は彼は亡くなってしまって。渡せないままになったけど約束は守りたいと思って収録しました。

●そういう曲の作り方をすることもあるんですね。
慎一郎:子どもみたいなおじいちゃんで、曲できちゃったよ、って喜んでて。そのキラッキラした表情を見たら、うれしかったし。俺のことをすごくかわいがってくれて、正社員の試験に合格したときも泣くほど喜んでくれたんです。そんな人だったんで、何とか恩返ししたくて、杏太さんにも相談して入れることにしました。

●それは形にできて本当によかった。3曲目の「細胞」からは杏太さんの新曲が4曲続きますが、これはさらっと書けた感じなんですか。
杏太:ひと月に2曲は作ろうって、自分に課題を与えてたんですけど、その中の曲ですね。

●中でも、「Soup」は異色ですよね。
杏太:異色ですね。自粛中にヒマ過ぎて作ったんですよね。生楽器は1個も弾いてなくて、全部打ち込みです。ビリー・アイリッシュが流行ってたから、こういう曲ってカッコいいなと思って作ったんです。
慎一郎:全然違う。俺、Merry Go Roundを持ってきたかと思ったから(笑)。

●メリゴも違う気がします(笑)。
杏太:もとから、ラップというか、ポエトリーリーディングがやりたいと思ってたんで、自分でもやれるかなと思ってやったんですね。

●その語りの部分が、ヴィジュアル系の語りになってますよね。
杏太:そうなんですよ、結局、好きなんですよね(笑)。
慎一郎:(爆笑)
杏太:ラップとなると、韻を踏むとか技がいるから大変なんですよね。俺には無理だなと思って。これは、悪い奴っているよな、という歌詞ですね。悪い奴はいるし、絶対いなくなんないし、っていう感じです。win-winって流行ってるじゃないですか。でもそれは、この歌詞で言うと、スープをあげたら、飲んだんだから何かちょうだいって言うような、そういう怖さがwin-wimにはあると思うんです。それは恐いなって。

●アルバムの中で、すごくいいアクセントになってる曲ですね。
杏太:アルバムじゃなかったら入れなかったかも。

●あくまで中心にある曲ではないと。ライヴではやるんですか。
杏太:ライヴはやんないすね。
慎一郎:やりましょうよ。
杏太:BUCK-TICKで今井さんが、1曲ぶっ飛んだ今井節をやるんですよ。そんな感じにしたいですね。

●「茜さす部屋」の歌詞には、宮沢賢治の詩が引用されていますね。
杏太:「雨ニモ負ケズ」が好きなんです。もともとラップみたいなのを入れたいと思ったときに、仮でハメてたらちょうどよかったんです。悲しい歌詞なんですけど、内容もちょうど合うと思って。シャウトしてるところのレコーディングは大変でした。シャウトするつもりはなくて。

●どう表現するつもりだったんですか。
杏太:ちょっと強めな口調で言おうかなと思ったぐらいで。そしたらホタルでもお世話になってるエンジニアの人が、“こら、杏太、ラップってそんなんじゃねえからな”って。ハンドマイクを用意して、それを握って腰もかがめてやってみろって言われたんです。そしたらハマりましたね。
慎一郎:ライヴみたいに歌ってました(笑)。杏太さんが、まるまるひとつのセクションを歌ってるのはこれが初めてだったんです。これを見てイケるなと思いましたね。

●杏太さんの歌詞を歌うのはどんな感じ?
慎一郎:歌詞は、何ですかね、杏太さんだなって思いますよ。この曲は、サビの入りが気持ちいいんですよ。(杏太が)がなった後に、優しいけど強く入れるというか。それが心地よくて。

●杏太さんの歌詞って、やわらかいというか、慎一郎さんと言葉選びが違いますよね。
慎一郎:角がないですよね。それを知ったのが、ホタルの『事件』の中に「泣き空」という曲があるんですけど、歌詞で「それでも歩け」って部分あるんですよ。“あんまり俺、「歩け」とか言いたくないんだよね”って杏太さんが言ってたのをすごく覚えてます。俺は「歩け」って思ったら、迷わず「歩け」って言うと思って。根本的にそういうところが違うんだと思って。だから、何かやわらかい感じがしますよね。

●「スターチス」では、“こんな夜は君に会いたい”というサビのストレートな歌詞がとても印象に残りました。
慎一郎:これは歌ってても、ぐっときました。
杏太:基本的に歌詞はストレートを心掛けてるんです、一回で意味をわかってほしいから。これは、生まれ変わりって大変だなという歌です。頑張って生きて死んだのに、また生が始まるのはすっごく大変じゃないのかなって思うんです。
慎一郎:そうなんだ。

●それで、“命は巡って忙しい”という歌詞なんですね。
杏太:生まれ変わって嬉しいと思う人もいるかもしれないけど、逆にちょっと休ませろよって思う人もいるんじゃないかな。

●「今、光を」は、慎一郎さんが新たに作った曲。 
慎一郎:コロナだったから書いた曲ですよね、もうそれでしかなくて。ライヴハウスに俺ができることは何かなと思ったら、曲を作ることしかないと。だから、ライヴハウスに向けて歌った曲ですね。結果的に、聴いてくれる人とか自分の身の周りの人たちに向けて歌った曲にもなってます。全部を助けるのは絶対に無理だから、目の届く範囲の人だけでも不幸になってほしくないんですね。

●次の「最後の夢」は共作ですね。
杏太:これも3、4年前ぐらいからある曲で、久々に共作をしましたね。Aメロしかなかったけど、同時期に慎君から“俺もこんなサビがあるんだけど”って言われて。それで、つながらないかな?って試したら、めっちゃつながったんです(笑)。
慎一郎:やったねって。
杏太:ちょうど同じようなコード進行で作ってたからよかったよね。珍しい作り方です。

●珍しく歌詞に英語を使ったのは?
慎一郎:そこは何も考えてなくて、別に英語を使ってみてもいいかなと思ったんです。俺、自分で自分の枠を狭める癖があるんです、日本語詞だとか、俺ってそういうイメージだろうとか。求められてることがあるんだったら、それはホタルでやればよくて、このユニットでは本当に自分の好きなようにやりたいと思ったんです。自分としては英語を使ってやったぜ、みたいなのもないし、使ってやったぜっていうほども使ってないし(笑)。ハマればいいかなっていうだけですね。

●最後「いつか死ぬ僕らの死なない歌」はアルバムのタイトル曲ですね。
慎一郎:俺の日常ってこんなだよなっていう曲です。日常的に自分が目にした景色とか、場所場所で切り取ったものを、切り貼りして書いた感じかな。

●日常の中で、いつか死ぬと思って生きているということですか。
慎一郎:そうです。絶対死ぬんで。それは、もしかしたら今日かもしれないし、明日かもしれないし、1年後かもしれないし、わかんないですけど、絶対死ぬんで。だったら、俺の日常ってこんなだったよなっていうのを残そうと思って書いた感じだと思うんですよね。遺言は残せないけど、音だったら残るんじゃないかなと思って。たいそうな遺言はないと思うんですけど、音楽は残していけるなって。

●それで、CDの帯が「遺言の代わりに残したい歌がある。」なんですね。
慎一郎:いつか死ぬから、絶対死ぬから、生きることをもっと大切にしてほしいと思います。いつだったか電車の中で、死んだら何も残んないなって思ったことがあるんです。めちゃくちゃ怖くなって、過呼吸になりそうになって。目の前が真っ暗で、変な汗が出て。一回電車を降りて、駅のベンチに座って休まないといけないぐらい。そのときから、人はいつか必ず死ぬんだから、もっと生きることに貪欲にならないといけないって思った気がするんですよね。以前、バンドをやってたときも、いつ死んでも悔いは無いと思ってたんですけど、死んだとしても好きなことをやってきたし、本望だと思ってたんです。でも今は、ちゃんと生を全うしないといけないと思ってます。つまり、日常をもっと大事にしなきゃっていうことですよね。そういう日常のいろんなことを思い返して歌詞に詰めた気がします。

●杏太さんも、この作品を生きた証にしたいみたいな気持ちはありますか。
杏太:作品が残ればね、カタチとして生きた証になると思ってますけど、そこまで深く考えてないかな。あんまり意味を持たせようとして頑張って生きるとしんどくなるから。そうじゃなくて、自分は生かされてるほうなんだから、ちゃんと生きなさいっていうぐらいでいいかな。
慎一郎:俺は震災を経験したのが大きいんだと思います。そこで、生の価値観がガラッと変わったんですよね。表現したいことの方向性はそんなに変わってないんですけど、生に対しての向きがより強くなったというか。俺はあのときに生きるほうに選別されたと思ってるから、生きられなかった人たちの分までちゃんと自分の生を全うしないといけないんです。

●最後に、アルバム発売後の予定を教えてください。
杏太:このユニットでは、3カ月に一回ぐらいライヴをやれたらいいと思ってます。
慎一郎:ホタルは、今年で高田馬場AREAがなくなっちゃうんで、毎月ライヴを入れてます。
杏太:10月は怪人二十面奏と2マン、11、12月はワンマンです。12月には、去年に引き続き、再録のミニアルバムを出そうと思ってます。三部作で毎年出していこうかと。

慎一郎&杏太それぞれがセレクトしたサイン入り本のプレゼント応募と、『アルバムお気に入りの曲』インタビューは、以下から。(応募締切は、10月17日まで)

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