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The Benjamin アルバム『Because』インタビュー

The Benjaminのアルバム『Because』が発売された。もう耳にしている人も多いはずだが、ぜひこのインタビューを読んで、そしてまた改めてアルバムに耳を傾けてほしい。容赦なく続く時間の流れが愛おしく感じられるんじゃないだろうか。そんな気がする。


あなたの人生、幸福、そして存在の根拠となるアルバム

■アルバムの発売は3年ぶりなので、少し間が空きましたね。

ミネムラ”Miney”アキノリ(以下、Miney):結成したときから、音源を出さなきゃダメだっていう風に追われるようなことはしないでおこうと決めていました。だから、これだ!っていうタイトルとかコンセプトが出て来ないと、よし作ろうとはならなかったですね。僕らの言いたいことがひとつに集約できそうなタイトルになる言葉が出て来ないとダメというか。僕ら、アルファベットのBから始まる曲しかないんですね。

■そのことについて改めて聞きたかったんですけど、どうしてBなんですか?
一同:(笑)
Miney:それは俺も思い出せないんですけど(苦笑)。
ウスイ”Tacky”タクマ(以下、Tacky):いつからそれが始まってんだ?って感じですよね。

■そうすると、Bで始まる言葉を探すみたいな作業があるんですか。
Miney:ときにはします。けど、結局そういうときってあんまり出て来なかったりするんです。“降ってくる”とはよく言ったもんですよね。『Because』というこのタイトルも、(取材をしていた事務所から見える)そこの交差点で思いつきましたよ。このタイトルが浮かんだときに、おし、行けるぞって思いました。

■なぜなら、という意味ですよね。
Miney:根拠とか理由ということですよね。僕らのアルバムは、「あなたにとっての何々です」と言えるタイトルがいいなと思ってるんです。ファーストアルバムは『BEGIN』で、「あなたにとっての始まりです」っていうことですよね。今回は、「あなたにとっての根拠です」といえる作品にできると思ったときに、これでいこう、じゃあアルバムを作ろうと。それが1年弱前ぐらいです。

■Mineyさんから『Because』という言葉が出て来たときはどう思いました?
Tacky:こういうタイミングで、こういう意味付けでっていう説明を聞いて、おお、いいねって思いましたよね。
ツブク”Mashoe”(以下、Mashoe):僕は結構Miney任せみたいなところがあるんです。こういうのやらない?って言ってきたときは、もう彼の中で出来てるんですよね。だから僕は、いつそうなってもいいように準備しておく。普段の会話の中で、そろそろ来そうだなってわかるから。さすがにもう15年ぐらい一緒にやってるんでね。

■『Because』という言葉が出て来たのは、どういうところからなんでしょう?
Miney:ん~、矛盾しますけど、そろそろアルバムを出さなきゃなって思ってたんですよ(苦笑)。
一同:(笑)

■なるほど(笑)。聴き手にとって、何に対する理由や根拠になる作品にしたかったんですか。
Miney:The Benjaminというバンド自体が、幸福感を伝えたり、人が強く生きて行くためのメッセージを伝えたりしたいんですね。だから、そうなるための理由や根拠をこのアルバムに凝縮させたいと思いました。でも、こうしたら幸せになれるでしょっていうことをただ箇条書きにするだけじゃなくて、最初に問題提示をして、最後聴き終わった頃に、みんなが私にとっての幸福とか愛はこういうことかもしれないという、理由や根拠になるようなものにしないといけないと思ってました。答えは人それぞれ違うけれど、僕らにとっての答えもひとつ作ろうというのもありましたね。

■そういったことを踏まえて曲作りに入ったんですか。
Miney:そういう大体の流れがあるよっていうのを説明しつつ、サウンド面も考えましたね。音楽として充実させたいし、3年前からの進化も見せたいし。そのためにこういうサウンドで、曲調でという風にざっくり話して。最初に1曲目の「ボヘミアンユースブルース」を作ったんですけど、その歌詞をみんなに見せたところで、Mashoeは今回はこの方向ねって、音楽だけじゃなくて言葉も理解してくれるんですよ。

■それはどういうものを感じ取るんでしょう?
Mashoe:一曲目で、『Because』の始まりだからって考えると、その主人公だとか、どういう方向で伝えるのかとかが何となくわかるんです。じゃあ僕もそういう方向にしようかなと。だから、Miney曲とMashoe曲で何となく歌詞に同じ単語を使ったりしてるんですよね。
Miney:たぶんですけど、全曲、キャラが優しいんですよ。前のミニアルバムの『ブーゲンビリア』は切なくて苦しい主人公を描いたんです。どの主人公も葛藤とか苦悩してたんですね。そうすると自然にMashoeが書くキャラクターもそういう人たちになってるから、一枚を通して何となくトーンが似るんです。

■今回の収録曲からは、若さとか青さ、初々しさを感じました。
Miney:回想してるんです。あの頃の輝きって素晴らしかったよねとか、あの頃のああいうくだらないことが今につながってるよねとか。もちろん背伸びをして書く歌詞も、そのよさがあるんだけど、(年を重ねた)今だから、(若かった)当時を景色として見ると、もっと本質的なものを書けてるんじゃないかなっていう気がします。

■それが聴き手にとってハッピーの理由になるのは、私にもそういう時代があったなって一緒に回想できるから?
Miney:意味がなかったことはなかったということですよね。例えば、初キスをしたときの感覚とかを、いいよねって話せるのはハッピーじゃないですか。当時は当時の喜びがあったと思うんですけど、それを思い出して、いいんだよねって会話をすることは、年をとらないとできないことですよね。だからもし10代の人が聴いたら、これからをもっと楽しみにしてほしい。20年後に聴いてみたら、もっとすごくいいものに感じられると思うから。20年、30年経っても愛してもらえる作品作りを僕たちはしてるんじゃないかなと思います。
Mashoe:自分たちも、20年後、30年後でも歌えると思えるんですよね。おじさんが無理してやってる感じはしないと思います。

■今の自分たちだからできるみたいなリアルさは感じますか。
Tacky:歌詞もそうだし、サウンド面も10年前じゃ出せなかったサウンドになってますよね。20年後に聴いてもいいだろうし、録り直したらまた違う感じになるんだよね。
Mashoe:もっとおじいさんになってね(笑)。

ただ音楽を楽しむ、楽しめる幸せ


■サウンドとか曲調については、特にこのアルバムだからというより、The Benjaminを始めたときから追求してきたものですよね。
Miney:それは変わってないですね。ロックのルーツミュージックをなぞっていきたいんですね、もちろん現代風に洗練されていくんでしょうけど。The Beatlesに始まり、60年、70年、80年代の、日本に限らず洋楽の音楽を基礎に、それをおしゃれにしたサウンドを目指して始めたバンドです。
Mashoe:年々、耳触りのいいものになってますね。
Miney:The Beatlesとか、喫茶店でずっと流れていても気にならないじゃないですか。それは理由があると思うんですよ。そういう音楽でありたい。

■それはメロディの普遍的なよさみたいなものがあるからなんでしょうか?
Miney:それももちろんありますし、楽器隊の音色とかさりげないアンサンブルも確実に必要だし。僕らは日常に溶け込む音楽がやりたいから、尖がったギターの音はそこまで必要ないし、音符を詰め込むんじゃなくてもっと緩やかなアンサンブルの中で、いいメロディが空気のように走っていくことがいいんじゃないかなと思ってます。


■そうなると、曲のテンポもある程度落ち着いた感じになるとか?
Miney:放っておくとそういう曲しか作らなくなっちゃいますね(笑)。速い曲もやらないといけないよねって思って作ったりもしますよ。速い曲もべつにイヤじゃないよね?
Tacky:イヤじゃない。
Mashoe:ライヴでやるとこっちもテンションが上がるから。でも曲を作るときは、お家じゃないですか。
Tacky:お家のテンションでね(笑)。
Miney:放っておいたら、ゆっくりな曲しか作らないと思います。
Mashoe:BPMが90から120ぐらい。120でもちょっと速いなって思うかな。

■そのせいか、今の一般的なロックバンドのアルバムと聴き心地が違いますよね。アレンジも緻密に考える必要がありそうです。
Miney:引き算が大切なんです。何をメインに聴かせたいのかを考えて、それ以外はマイナスしていく。そうすると聴かせたいことが聴こえるし、絡み合った音がよく聴こえるのかな。


■今は、技術が進んでいろんなことができますけど、The Benjaminは時代の最先端を取り入れていくのとは逆のベクトルを向いてるバンドですよね。それが一周回って、逆に新しいことになったりするんじゃないかなと思ったりしますけど、別にそれをねらっているわけではない?
Miney:スタイルとしては、ユニコーンみたいにいたいですね。復活してからのユニコーンがいい。
Mashoe:すっげえ音楽を楽しそうにやってるんです。楽器を演奏することしか楽しみがないのかなって思うぐらい(笑)。この人たちは、バンドのことをやってるのが一番幸せなんだなって感じられる。
Tacky:楽しそうにやるからね~。
Miney:レコーディング中もライヴ中も、ヘタクソなプレイをしたメンバーにヘタクソって言えるような感じ(笑)。

■生まれて初めてバンドをやったときの楽しさ、みたいな感じかな。
Miney:そうそうそう。
Mashoe:60歳近いおじさんたちがそれですからね。うらやましいなって。

■そういう意味では希望がありますね。
一同:(笑)
Tacky:確かに(笑)。
Miney:すごい速弾きとか、そういうのは上手いと言わないからって言っちゃうし。
Tacky:もちろんそういうのもいいし、むしろ今の時代はそっちのほうがいいんだと思いますけどね。時代に逆行してるんですよ。
Mashoe:機材とかもね、新しいのを使ったら楽に弾けるんだろうけど、歯を食いしばって弾くみたいなのが楽しい(苦笑)。弾くのを頑張る。
Tacky:めっちゃ大変だから。でも、やっぱり暖かさが違うんだよね。

■レコーディングは時間がかかりそうですね。
Tacky:そこまででもないですね。最近は生っぽい音にも慣れてきたから。
Mashoe:無理して弾くもんじゃないと思うんですよね、レコーディングって。上手かろうが下手だろうが、一回目が一番上手いですよ、集中してるし。僕は一回か二回しか弾かないですよ。ベース一本しか持っていかないし、音もほとんど変えないし。
Miney:後で後悔したら、それは戒めなんで。

■戒めって重い(苦笑)。
Tacky:(笑)楽しくやってるはずなのに。
Miney:先人の方々のライヴ盤とかレコーディング盤もそうだけど、あれ?っていうところが記憶に残りません? 一回目と二回目は違うんだとか、そういう発見も面白かったし。でも今はコピペができるから同じになるんです。あれは面白くないよね。だってワンコーラス目とツーコーラス目で同じことを歌ってても歌の表情が全然違うんだから。僕らは歌を一番最初に録って、デモのトラックに歌を入れるんです。
Mashoe:その歌に合わせて、歌い方を聴いた上で楽器を変えたりして。

■歌に合わせて楽器を録るんですね。
Miney:コーラスの数も多いから、早めに歌関係を終わらせないと。
Tacky:現実的な話になってきた。
Mashoe:コーラスは量が多くて大変なんですよ。3人同時にマイクを囲んで録るのもあるんで。ひとりがミスったら、誰だ?って。
一同:(笑)

なぜという問い掛けで始まり、答えが示される


■まず最初にMineyさんが「ボヘミアンユースブルース」を作ったときは、このアルバムの一曲目にふさわしい曲を考えたんですか。
Miney:『Because』というアルバムタイトルが決まったから、1曲目は“Why”だなと。“なぜ?“から始まるべきだと思ったんです。


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