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春の宴  ・・・3年

春に明けたその朝、宝満のやまはその存在を、すべてへ向けてはっきりとあらわしていた。



透明な空に虹高く立ち、その祝福に未だ乗りきれぬわたしを乗せて電車はくぐってゆく。

若い月はそこに迎えていた。


かつてよく通った太宰府の山にて、わたしはたった数年という時の無限のたわみの、辿ってきた道すじをみた。あのころ、わたしは青い広がりにあそんでいた。迎えてくれるものの温かさがあった。

あれからいったい、どんなふうにして、あんなどうしようもない暗がりを知ってしまったのだろう。どうしようもなかったもの、別れや死や、自責や、涙は、新しい世界を、今ここに連れてきた。


時もどることも欲せず、この世の新しいものも欲しなくなったとき、わたしは最期の逃げ場に気づけば新しい境地をみていた。


こだわっていたすべてが若い生をかけるにふさわしいものだったのか、あるいはばかばかしいものだったのか、そのどちらでもあってどちらかでなくてもよくなったとき、

抜け落ちてゆくちからと生の輝きと、うらはらに、わたしはそこにわたしをみた。説明文のないわたし。

それは正しい屍であるほどに、求めていた安らぎであった。



若い月が見ている。

わたしは月の目を通して再びあの広がりに立つ。


遠い昔の思い出だとばかり思っていたその青い情景が、遠い未来までもつながる時の輪の、くりかえし見る既視なのだと気づきつつある。