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a moment a dimention

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夢にあらわれた世界をshort storyにしました。
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#宇宙SF

コムニ  5

どこまでも広がる骸となってしまった家並みを過ぎ、トラムはスピードを上げ新都市へ向かう。形骸のみの旧都市は長い時放置され黒々と静まっている。その広大さに比べ新都市は小規模で、消失した世界との人口の差を語っていた。 都市といえども寄せ集めの建造物群で、新たな都市計画に基づくというよりも、有り合わせのライフラインでしのいでいるといった途上段階が続いているのであった。 ただしトラムの乗客たちの表情には、時代の激しい移りによる疲れこそ表れていたかもしれないが、未来へ向かう聡明なひかりが

コムニ  6

日々はしごく単調なものとなっていた。 朝は完全シャットインの暗闇の小部屋に目覚める。ウィンドースクリーンのスイッチを押すと、いかなる季節であっても朝の太陽が地をわずかにのぞいた角度の光線にさらされた下層界の光景が見えた。そしてぼくは ‘ ああ、また生まれたんだ ’ と感じるのであった。 夜は深く、どこまでも深く、意識を持っていかれそうでこわい。とくにそこに漂うかつてHISTO-VISIONで見せられた深海魚のような姿の船を見るときは。もちろん宇宙線ブロックのためのスクリー

コムニ  7

薄暗く広大な講堂の壁は液状ガラスになっていて、目下には新都市の全貌が確認できる。光景だけではなく都市内のすべてのエリアにおいて、どの№のストリート、裏路地にいたるまでモニターできるスクリーンが備わっていた。男は冷たい暗がりからその空間とは比率的に不自然なほど狭いドアをくぐり、階段をぐるぐると産道を通るように風のあたる踊り場へと出た。 ひかりに細めた目の灰色の虹彩は崩れたように淡く大きく、遠くまで続く乾いたストリートを一望する。 男は名をテジロといった。 彼の目はその情景に、

コムニ   8

彼女がその都市の内部へ組み込まれていったとき、初め、人間の影の異質さや集合建造物の奇妙さにみとれ、己との違いとして境界が明瞭に認識されていたが、日々無目的に歩むにつれ、次第にその境目は薄れ、影に馴染み、異質で奇妙な光景に同化していった。明白な精神は、この旅を推し進めていたちからは薄れ、周りの影と同じくどんよりと、盲目に変わり果てていった。 旅のあいだにすり減り、役に立たなくなってしまった靴や、防御反応のように全身を隠したストール姿が、あたかもこの世界でよく見かける(そういう

コムニ    THE END

目の前に差し出された手を、その行為の意味以前にただひとつの不可思議なモノとして、しげしげと眺めていた。白っぽい、乾き気味のやや不健康な大きな厚い手。でも相の筋が深く、頼もしくも感じられ‘ ありふれた ’と表現したいくらい、どこか馴染みのある手だった。 わたしは気づくと座り込んでいた。  小雨が降っている。 目の前の手の先を目で追うと、フードに隠れて影が濃くなった顔がやや強張った表情でこちらを見ていた。彼自身がその行為に戸惑っているようだった。 自然に手を伸べ、その手を取