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a moment a dimention

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夢にあらわれた世界をshort storyにしました。
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2023年1月の記事一覧

コムニ   8

彼女がその都市の内部へ組み込まれていったとき、初め、人間の影の異質さや集合建造物の奇妙さにみとれ、己との違いとして境界が明瞭に認識されていたが、日々無目的に歩むにつれ、次第にその境目は薄れ、影に馴染み、異質で奇妙な光景に同化していった。明白な精神は、この旅を推し進めていたちからは薄れ、周りの影と同じくどんよりと、盲目に変わり果てていった。 旅のあいだにすり減り、役に立たなくなってしまった靴や、防御反応のように全身を隠したストール姿が、あたかもこの世界でよく見かける(そういう

コムニ    THE END

目の前に差し出された手を、その行為の意味以前にただひとつの不可思議なモノとして、しげしげと眺めていた。白っぽい、乾き気味のやや不健康な大きな厚い手。でも相の筋が深く、頼もしくも感じられ‘ ありふれた ’と表現したいくらい、どこか馴染みのある手だった。 わたしは気づくと座り込んでいた。  小雨が降っている。 目の前の手の先を目で追うと、フードに隠れて影が濃くなった顔がやや強張った表情でこちらを見ていた。彼自身がその行為に戸惑っているようだった。 自然に手を伸べ、その手を取