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アルバイトの思い出②:ファッションショーの裏方、フィッターなど

服飾の専門学校生ならではのアルバイトと言えば、モデルの着せ付け、いわゆるフィッターである。私は2回だけだったと記憶するが、京都市内の会場で行われた展示会のショーにフィッターとして行ったことがある。

フィッターの仕事は学校を通じて紹介があり、応募した学生の中から先生によって選出された学生が就くことが出来るという、誰でも出来るアルバイトではなかった記憶がある。主催側としては大事な顧客を前に行う新作発表展示会の一部としてのウォーキングショーであり、学校側も粗相なくこなせる学生を送り出す必要があったのだろう。20年ほど前の話であるが、たいてい半日程度の拘束で、場合によっては弁当付き、日当として5,000円くらいが支払われ、服飾学校生として貴重な経験ができ、かつ実入りの良いアルバイトだった。

仕事内容としては、バックステージでモデルさんの着替えを手伝うもの。私は標準的な背の高さだが、身長150cm程度のクラスメイト2人と一緒に赴いた現場では、長身のモデルさん相手に小柄な彼女たちは、背中のファスナーを首まで上げるだの、アクセサリーを付けるだの、身長差に若干苦戦していたが、さすがは選抜メンバー、ハンデをカバーする手際の良さと心配りとで頑張っていた。モデルさん側も、ほとんどの場合において自分たちより小柄なフィッターを相手に着替えするのに慣れているのであろう、必要な時には少しかがむなど、うまく協力していた。ショーで着る服はサンプル品だったはずだが、このときは高級イタリアブランドだったので、扱いには非常に気を遣った。
また会場となった建物には木製エレベーターがあり、扉は蛇腹の引き戸で、時計のような文字盤で針が階数を指すというとてもレトロなものだったのを印象深く覚えている。いま改めて調べてみると、日本最古のエレベーターが現存するという東華菜館だったのだろうか。

レンタルウェディングドレスのショーという現場もあり、こちらはドレスだけでもかさばるし重いし、さらにドレス本体とは別でスカート部分を膨らませるパニエも着せ付ける場合もあり、どれも裾が広がっているからモデルさんに近接して着せることができない上、重さに耐えうる金属ファスナーは堅くてなかなか上がらないしで悪戦苦闘したが、これはこれでまた良い思い出である。

さらにパタンナーとして就職した東京では、所属するブランドが出展していた東京コレクションの手伝いも経験した。ただしこちらはアルバイトではなく業務の一部扱いで、内容はフィッターではなく会場整理係である。来場者をそれぞれ招待客、関係者、報道関係、VIPなど決められた客席エリアに誘導するというもので、若手パタンナーが係を請け負っていた。我々の服装はもちろん当該ブランドの服で色は黒、ショー開始の1時間半前くらいには会場に入る必要があり、タイミングによってはリハーサルを見ることが出来たりもした。来場者はそれぞれ印のついた招待券を持参して来るため、その印によって各エリアへ振り分けてご案内し、VIPエリアには、女優や歌手、政治家、宝塚のスターなどという面々が鎮座していた。
私も関係者として何回かは招待券を手に入れることができたので、東京在住の友人を招いたこともあった。友人達はみな、貴重な機会を楽しんでくれた。私たちスタッフにはもちろん席はないが、最後列=客席ひな壇の一番上から立ち見でショーを見学する権利を得られた。春夏、秋冬それぞれ3回ずつは見たはずだが、私にとっても今や遠い日の懐かしい思い出である。

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